研究課題/領域番号 |
22740105
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
稲生 啓行 京都大学, 理学研究科, 講師 (00362434)
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キーワード | 複素力学系 / Mandelbrot集合 / くりこみ |
研究概要 |
3次多項式の分岐測度はcritical portraitの空間上のルベーグ速度をstretching rayに沿った極限である(Dujardirn-Favre)という事実を用いてstretching rayをNewton法で解くことによって計算している。通常のNewton法では解くべき方程式の微分がどんどん大きくなって発散してしまう為、場合によっては非常に悪い精度でしか極限が求まらなかったり、Newton法自体が容易に発散したりしていた。これを回避する為にNewton法を高次元化し、それによってより高い精度で極限が求まるようになった。一方で、放物的不動点を持ち1つの臨界点が前周期的な場合などの場合には構造的に問題があり実際にこのような手法だけで極限を求めることはほぼ不可能であることも判明した。また放物的なパラメータは分岐測度の台に入っていても、密度は低い為、その周辺の絵を得ることは非常に困難であり、これは今後の課題である。 また周期的な臨界点を持つ3次多項式の1-パラメータ族であるperiodic curveについては、「切り開いた」充填Julia集合が力学系的に自然に埋め込める、というMilnorの予想について、それがどのような理由で現れているか、その周辺で何が起きているかについて、調べた。まだ完全な証明には至っていないものの、簡単な場合については、具体的なcombinatoricsのいくつかの問題に帰着することができた。残る問題もほとんどは既にMandelbrot集合などについて知られている結果を応用することで示すことができると考えている。また一般の場合にも周辺の状況まで含めた、Milnorのものを含む、より具体的で強い予想を立てた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
残念ながら研究実施計画に書いた分岐軌道の可視化についてはあまり進展が見られず、また有理関数の族については非常に困難であることがわかっただけであった。しかしながらその一方で、周期的な臨界点を持つ3次多項式の1-パラメータ族については「切り開いた」充填Julia集合が自然に埋めこめる、というMilnorの予想についてかなり多くの情報を得ることができた。この予想が示せると、例えば周期3の場合には分岐パラメータ集合の構造の非自明な部分が完全に記述できることが数値的には観測されている為、これは非常に重要な進展であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
周期的な臨界点を持つ3次多項式の1-パラメータ族については「切り開いた」充填Julia集合が自然に埋めこめる、というMilnorの予想を周期2と3の場合に対して証明し、それによって周期3の場合の構造を数学的に厳密に記述する。またより高い周期の場合の問題点を明確にする。 分岐測度の可視化については、引き続き計算方法やインターフェースの改良を行う。現在の計算方法では求めるパラメータの近似を数値的に求めているが、その後に求めるパラメータ自身が満たす代数方程式を数値的に解くようにして精度を上げる。複素1次元でよく知られているMandelbrot集合の場合に高次元向けの手法を適用し、状況を確認しながら研究を進める。
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