研究課題
本年度はバンチング現象の数理モデル、綾織り模様の数理モデルの研究を行った。バンチング現象とは結晶表面においてステップが束になり運動する様子のことである。実際の結晶成長実験で観測される結晶表面の渦巻模様は分子数十個ほどの高さをもつ段差であるため、束になったステップがそこにあると考えている。しかしアレン・カーン型方程式によるモデルでは束になったステップは離れることが知られているため、まず同様のことが等高線方程式においても得られるか研究を行った。その結果、中心が原点の一つのみ、領域が円環領域における等高線方程式モデルでは束となったステップは束のまま運動することが証明された。他方数値計算実験では、不純物の沈降による減速効果を取り入れたモデルでステップが束をなす様子が観測されている。本年度はこの束をなす様子の数学的証明に着目した。そこでまずはインアクティブペアと呼ばれる、スパイラルステップが互いに逆向きになる2つの中心間でステップが静止する状況を研究し、定常ステップに他のステップが収束する様子の証明を試みた。実は方程式の性質から連続関数の範囲でこの静止したステップを表す定常解は存在しないので、不連続な定常解を構成し、これと比較定理によって任意のステップはその定常ステップを超えられないことを証明した。さらにこの研究過程で、逆向きスパイラルステップの中心間の距離と成長速度の関係についての数値計算実験を行い、インアクティブペアとなる距離の最大値の約2倍において表面の成長速度が最大になることを発見した。綾織り模様の数理モデルの研究では、一つの中心から現れる2つのスパイラルステップのそれぞれに異なる異方性を与える方法を考案し、実際に綾織り模様をなす様子を数値計算実験で確認した。これの数学的な研究については十分な結果は得られておらず、今後も研究を続けていく。
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A special volume of Discrete and Continuous Dynamical Systems-Series S "PDE approximations in Fast reaction-Slow diffusion scenarios"
巻: 5(印刷中,Web上で発表済) ページ: 159-181
数理解析研究所講究録 非線形発展方程式と現象の数理
巻: 1693 ページ: 168-179