クラスター代数と差分方程式への応用について、本年度は次のような結果を得た:1.ポアソン構造の構成:クラスター代数にはクラスター変数、係数と呼ばれる2種類の従属変数があるが、これらの従属変数のポアソン括弧式を調べることは、クラスター代数を力学系の研究に応用する際に基本となる問題である。今年度は、クラスター変数と係数の関係に最小限の仮定を課して(無限の場合を含む)クラスター代数のポアソン構造を構成し、先行するFockら、Gekhtmanらの(主に有限の場合の)構成を自然に含む結果を得た。 2.差分方程式の構成:クラスター代数の性質を応用すると、新しい視点から差分方程式系の可積分性を説明できる可能性がある。今年度は第一段階として、ソリトン解を持つことが知られている「差分Lotka-Volterra方程式」を記述するようなクラスター代数を構成した。まず無限の大きさの箙を新しく作り、この箙に対応するクラスター代数を構成した。そして、この代数の生成関係式で特別な組を選ぶことによって目指す差分方程式を構成した。この構成方法は、中西による「クラスター代数による一般化されたTシステム、Yシステムの構成」の具体例になっている。さらに、1.の結果を応用してこの差分方程式の従属変数のポアソン括弧式を得た。
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