研究課題/領域番号 |
22740111
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山崎 玲(井上玲) 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30431901)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | クラスター代数 / 差分方程式 / 結び目 / 複素体積 |
研究概要 |
本年度はクラスター代数の3次元双曲多様体への応用について次の成果を得、論文にまとめた。 クラスター代数は2000年頃に定式化され、表現論、幾何、差分方程式などへ様々な応用が研究されている。本年度の成果は、点付き曲面の三角形分割とクラスター代数の関係をもとに3次元双曲多様体の不変量をクラスター代数を使って定式化したことである。具体的な内容は以下である。2橋結び目と呼ばれるクラスの結び目の理想四面体分割は作間-Weeksによって与えられ、4点付き球面束を境界で貼り合わせることで得られる。我々は、クラスター代数のクラスター変数と係数という2種類の変数を使って四面体分割の情報をクラスター変数の代数方程式に翻訳し、Zickertの理論を用いて理想四面体のflatteningを計算することが出来ることを示した。3次元双曲多様体の理想四面体分割に対し個々の四面体のflatteningが分かると、複素体積(双曲体積 + i Chern-Simons不変量)が求められる。最終的に2橋結び目の複素体積を求めた。 この研究は樋上和弘氏と共同で行い、成果を2月に福岡で開催された研究集会「Low dimensional topology and number theory V」および3月の日本数学会で発表した。また、9月にはMSRI(Berkeley)でクラスター代数のプロジェクトに参加し、クラスター代数の基礎と応用について情報収集と研究打ち合わせを行った。2月にはMinnesota大学に滞在し、戸田格子の組み合わせ的に拡張した模型について議論を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は可積分系から視点を変え、クラスター代数の幾何的側面の理解を深めて新しい進展を得た。具体的には、クラスター代数のクラスター変数と係数という2種類の変数を使って3次元双曲多様体の四面体分割の情報をクラスター変数の代数方程式に翻訳し、その解から理想四面体のflatteningを計算するという新しい方法を発見した。個々の四面体のflatteningが分かると、双曲多様体の複素体積と呼ばれる不変量が計算でき、結び目の不変量が求められる。 結び目と可積分系の対称性とは密接な関係があり、この成果を可積分系の幾何的側面の理解につなげたいと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の成果を踏まえ、今後は以下の2つを柱に研究を進める計画である。 (1) クラスター代数の3次元双曲多様体の解析への応用を発展させる。まず、結び目理論と可積分系の両方で重要な役割を持つYang-Baxter関係式ををクラスター代数の言葉で実現し、さらにクラスター代数の非可換化(量子化)を使って結び目の不変量と差分方程式の対称性について考察を進める予定である。もともと量子群の表現で書かれているR演算子(Yang-Baxter関係式の解)をクラスター代数と結び付けることにより、量子群と幾何とのより深い関係が明らかになると期待される。 (2) 2月のMinnesota大学での議論を深め、戸田格子の組合せ的な拡張の対称性と初期値問題を考察する。この模型はトーラス上の2方向の周期(n, m)と、n方向のずれkで定まる。まずn=2,3,4程度の場合に調べて予想を立て、それを一般化する予定である。この模型は可積分性を保った区分線形極限を持つと考えられ、その極限とトロピカル幾何との関係も視野に入れる。
|