研究課題/領域番号 |
22740112
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
大崎 浩一 関西学院大学, 理工学部, 准教授 (40353320)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 非線形現象 / パターン形成 / 反応拡散方程式 / 走化性 |
研究概要 |
本年度の研究では,引き続き三村昌泰教授・辻川亨教授の提案された走化性・増殖系を取り扱った.この方程式は増殖項がない場合,爆発を起こすことで有名なKeller-Segel系と一致する.本研究では,増殖項がもたらす減衰作用の強さがいかほどあれば,爆発を抑え込めるかについて考えている.空間次元Nが2のとき,東京医科歯科大学の中口悦史先生との共同研究によって,減衰作用が2次より小さい弱減衰の場合でも,非線形分泌の作用をさらに導入すれば,大域存在が示せることが分かっていた.本年度の研究で,N=3についても特別な条件を加えることなく,同様に大域存在が示せることが分かった.さらに,N=2,3の場合において,ともに解の生成する力学系が指数アトラクターを構成することも示すことができた.この成果は,査読付専門誌に現在投稿中である. 次に,走化性・増殖系のパターン形成の問題を扱った.昨年度までに,正六角形パターン解の発現が分岐現象として捉えられることが報告者等の成果で分かっていたが,さらに走化性項の係数を無限大としたときの漸近挙動についても,L(hat)2の位相で,定数定常解に収束することが示せたためPhysica Dに成果を報告した.この研究は久藤衡介先生,櫻井建成先生,辻川亨先生との共同研究にて行った. 生物,走化性,六角形というキーワードとの関連からミツバチの造巣過程の観察を行っているが,これについては,女王フェロモンという化学物質が重要であることは以前より分かっていたが,実際の観察から,熱が重要な要因となりうることに気づき,温度分布についても調べて,成果が得られたので,兵庫生物学会の定例学会ならびに学会誌にて成果報告を行った.論文については受理され,現在印刷中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
走化性・増殖系に対する時間大域解の存在については,N=2の場合が既に報告者によって示されていた.本年度はN=3の場合について,同様の結果が示せたことに加えて,解が生成する力学系に対して指数アトラクターも構成できることが分かった.また,パターン形成問題についても,空間2次元の場合について,今年度1件の査読付き論文にて報告を行っている.空間3次元については,ミツバチの巣板形状の形成を考えているが,当初それには空間異方の作用が強く働いていることを予想していた.しかし実際のミツバチの造巣過程を観察してみると,空間異方よりは,領域が何らかのフィードバック作用により制限される作用や熱の作用などの方が主要となっていることが予想された.そこで,現在は原点に立ち返ってモデル作りから行っており,その成果については,日本数学会の関連分科会にて口頭発表済みである.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は本研究課題の最終年度であり,まとめの段階である.走化性・増殖系に対する時間大域解の存在については,一般次元の問題が残されているが,この問題について,既に予備計算を行っており,今年度中に成果をまとめることができる見込みである.パターン形成の問題については,空間3次元について現在未着手であるが,上記達成度の報告のところで述べたように,当初の予想と異なる視点から現在アプローチを行っている.今年度中に数理モデルの第1版を提案し,数理生物関係の査読付き学術誌に投稿することを目指す.ともに4年分の一定の成果をまとめて報告できる見込みである.ミツバチの造巣過程の観察についても引き続き行い,今年度中に成果報告を行う予定である.
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