研究概要 |
本研究は、近・中間赤外分光観測に基づいて、新星・超新星爆発、ウォルフライエ(Wolf-Rayet;WR)連星系による固体微小粒子(ダスト)の形成過程を解明し、その組成や質量の系統的評価を行うことを目的とする研究課題である。恒星を起源とするダストは、現在の宇宙空間の豊かな物質・化学環境を作り上げる上で、中核的な役割を担っている。その形成過程、変質過程の解明は、初めは水素とヘリウムだけであった宇宙が現在の生命活動を含む豊かな宇宙に至までの化学進化の歴史を理解する上で極めて基本的な情報であり、赤外線天文学に置ける重要な解決すべき課題の一つである。23年度においては、(1)"Wolf-rayet連星系のダスト形成"に関する研究については、すばる望遠鏡共同利用観測(S09B期、S10A期、S11A期;PI.左近 樹)に観測を遂行し、提案したすべての時期におけるデータ処理を完了させた(結果の一部は、第三回すばる国際会議で発表)。(2)"新星によるダスト形成"の研究については、日本人アマチュア天文家らによって発見されたさそり座新星V1280Scoについて、すばる望遠鏡で2007年に取得されていたアーカイヴデータ、および、すばる-Gemini望遠鏡時間交換枠の採択課題(GS-2010B-C-7,GS-2011B-C-4;PI,左近 樹)のデータ取得及び解析を完了させ、実際に星の周りで形成される固体微粒子の組成、温度、質量、分布の1000日以上のスケールでの時間進化を捉える事に成功した。特に、8mクラスの望遠鏡を用いた新星ダストの1000日以上にわたる、詳細な固体微粒子の時間進化を捉えた例はほとんどなく、「恒星周りで形成される固体微粒子の形成メカニズム」、そして、それが星間空間に放たれるまでの過程において経験する「物理的、化学的変質過程」の観測的理解に、重要な根拠となる観測情報を得るに至った。現在論文での成果報告を急いでいる。
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