研究課題/領域番号 |
22740118
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
天野 孝伸 名古屋大学, 理学研究科, COE特任助教 (00514853)
|
キーワード | 宇宙線 / 衝撃波 / プラズマ / 粒子加速 / 超新星残骸 |
研究概要 |
宇宙線加速源の最有力候補である超新星残骸衝撃波では宇宙線の圧力によって衝撃波構造が変性を受けた宇宙線変性衝撃波が形成されている可能性が指摘されている。そのような衝撃波では衝撃波構造の変性が宇宙線の加速効率自体を変化させ、それがまた衝撃波構造に反映されるという非線形のシステムになっている。また加速された宇宙線の励起する不安定性は上流の磁場を増幅するとも考えられている。これらの過程は観測結果の解釈において非常に重要となってくる。 一方で、本研究によってコンパクトな天体から放出される相対論的なアウトフローと星間物質との相互作用で形成される衝撃波においてもこのような衝撃波構造の変性が重要になってくることが分かった。相対論的なパルサー風は中心星由来の強い磁場を伴うと考えられるが、観測が示唆する磁場強度は理論予測よりも何桁も小さなものである。これは磁場のエネルギーを粒子のエネルギーに変換する過程が存在することを意味している(σ問題)。我々は新たに開発した相対論的な2流体シミュレーションコードを用いてパルサー起源の波(円偏波の磁気シア)を伴う相対論的フロー中に発生する衝撃波の数値シミュレーションを行った。その結果、典型的なパルサーのパラメータでは上流の磁気シアが衝撃波との相互作用によって大振幅の電磁波に変換され、その減衰に伴って電磁気エネルギーが粒子のエネルギーに非常に効率良く変換されることが分かった。この時励起された大振幅の電磁波は上流に伝播し(前駆波)、衝撃波の構造が大きく変性を受けることも分かった。この構造は宇宙線変性衝撃波と非常に類似しており、宇宙線の役割をここでは電磁波が果たしていることが推察される。この結果はこれまで知られていなかった全く新しい発見であり、今後は相互理解の発展が期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の目的は宇宙線の効果による衝撃波構造の変性の理解を大きな目的としていたが、これまでの研究によって類似の衝撃波構造の変性が衝撃波で自発的に形成される大振幅の電磁波によっても起こることが分かってきた。これは当初予想し得なかった成果であり、またこれまで全く知られていなかった新しい現象である。そのため、これを詳細に調べることに重点を置いており、当初目的とは少し異なる研究を展開している。
|
今後の研究の推進方策 |
通常の電磁流体的な衝撃波構造の変性は宇宙線の効果によってのみではなく、衝撃波で励起される大振幅の電磁波によっても引き起こされることがこれまでの研究で明らかになってきた。このような現状においては、当初目的のように必ずしも宇宙線に固執せず、非熱的成分(高エネルギー粒子および大振幅波動)による衝撃波構造の変性を調べるというより一般的な立場から変性衝撃波の構造を理解することが肝要であると考えている。特に両者の類似点および相違点を意識しながら研究を進めていく。
|