X線CCDカメラの高速低雑音信号処理を目的としたアナログ・デジタル混在ASIC(特定用途向け集積回路)を試作・開発した。単体電気試験の結果、入力等価雑音は約30μVであった。これは既存の天文衛星搭載X線CCDカメラと同等の雑音性能である。さらにピクセルレート500kHzでの動作に成功した。ゲイン・入力信号レンジ・積分非線形を含め、ASIC単体性能としては目標を達成した。 陽子及び重粒子線を用いた放射線耐性試験を行った。一般に宇宙用ICは、入射荷電粒子の電離損失で生じた電子正孔対によって、蓄積的な影響と確率的な影響を受ける。確率的な影響はさらに、致命的な損傷(ラッチアップ)と一時的な損傷(アップセット)とに分類される。これらのうち、蓄積的現象とラッチアップについては既に耐性を実証済みだったため、平成23年度はアップセットに対する実験を行った。実験で観測されたアップセットイベントから予想される、低高度地球周回軌道におけるアップセットイベントは上限値で6.6×10-4s-1であった。典型的なX線天体観測時間である100ksの間で7イベント程、X線イベントと区別がつかない信号が紛れ込むということになる。これはCCDカメラの非X線バックグラウンドに比べて2桁以上低い値であり、科学観測に影響を与えるものではない。この実験結果から軌道上での長期安定動作が保証されていることを実証した。 次にCCD素子と接続してX線スペクトルを取得した。従来のCCDカメラと同じ速度(68kHz)で、読み出し雑音8.8e-、エネルギー分解能181eV(FWHM)@5.9keVを得た。ASIC単体性能から予想される雑音(5.5e-)よりも大きいのはASIC以外からの雑音混入によるものであるが、ASICがCCDカメラの信号処理回路として正常に機能することを実証した。
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