我々は次世代の30m望遠鏡およびスペース望遠鏡に適用可能な可視および近い赤外線用のイマージョングレーティングの開発を行った。 初年度に実施したZnSとZnSeへの加工条件調査の結果を基にして、2年目に回折面サイズが50mmx80mmのプリズム上への精密溝加工を実施した。加工は、共同研究者であるP.Kuzmenko博士が所属するローレンスリバモア国立研究所のPERL-IIを用いたフライカット法によって行った。その結果、目標である3nm(rms)以下のピッチ誤差を達成する良好な溝形状が得られていることが、独自開発した光学測定システムによって明らかになった。しかしながら、1.チッピングが多い、2.回折面の面精度がスペック値λ/4に対してλ程度と悪い、3.ブレーズ角が狙い角から3度ほどずれている、といった新たな課題が認められた。これらの原因を詳細に調査したところ、1は高均質材を使えば問題ないこと、2は加工時の気圧変動が原因であること(温度はΔT=0.01Kでコントロールしている)、3はダイヤモンドバイトの角度エラーによることが分かった。そこで、3年目にこれらの原因を対処し、再加工を実施したところ、波長1umにおいて、72.8%の相対回折効率を達成していることが分かった。目標回折効率は70%であったので、仕様をクリアしている。 また、加工反射面コーティングの試作も行った。反射率は高いがZnSへの密着度が悪いAuの代わりに、SiO2を密着層としたCu反射膜の設計を行い、ZnS基板へのコーティング試験を実施した。製作したコーティングの反射特性を測定したところ、仕様全波長域反射率にしてスペックを満たす90%以上の反射率を達成していること、高湿度環境下での耐性においても劣化がないことが分かった。以上より、目的であった可視~近赤外線域でのイマージョングレーティング実現のめどが立てられたと言える。
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