本研究の目的は、早稲田大学の那須パルサー観測所(以後、那須観測所)で繰り返し行っている広域サーベイによって見つかりだした「電波領域において突発的に輝く天体(以後、電波トランジェント)」の正体解明に向け、主に国内の電波天文用観測網を利用することで、トランジェント現象の起源天体及び天体物理学的性質を探ることである。特に那須観測所の広域サーベイによって電波トランジェントが検出された後、数時間以内に天文観測装置の中で最も高い位置決定精度を持つ超長基線電波干渉計(VLBI)を用いて観測することで、対応天体の同定が期待できる。 本年度は那須観測所において広域サーベイをより感度良く実施するため、ナイキストレートでデータをサンプリングできるA/Dサンプラーを導入する。現在試験を行い観測システムに組み込む準備をしているところであるが、実際の観測に導入できればさらに高感度での定常観測の実施が見込めるため、今まで検出された電波トランジェントよりも数倍暗いものまで検出できる可能性がある。この天体の一様等方分布を仮定すれと、強度が今までの1/2の天体まで検出できれば検出数が約2.8倍に増えることも期待できる。検出機会が増えることにより、統計的な議論が有意になるだけでなく他の観測所(国内VLBI観測網や他の波長における観測装置など)を用いた追観測の機会が増え、この天体の起源に迫れる可能性が高くなるはずである。試験中のサンプリング装置及び今後導入予定の記録装置をセットにした試験を出来る限り早く済ませ、新年度中旬頃までに定常観測への導入することを目指す。
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