ニュートリノは微小な質量を持つ素粒子であるが、標準模型の枠内では質量を持たせる機構が存在せず、ニュートリノは質量ゼロの粒子として存在する。一方、暗黒物質の正体は明らかとはなっていないが、標準模型の枠内ではその候補となるような粒子が存在しない。このように、ニュートリノ質量や暗黒物質の問題を解決するには、標準模型を超えた新たな理論が必要となる。離散対称性伴った輻射シーソー模型は、これらの問題を同時に解決しうる可能性がある模型である。 先行研究では、そのような具体的模型として、3ループの量子効果牽通じてニュートリノに質量を与えるテラスケールの模型(AKS模型)を提案した。AKS模型は、さらに宇宙のバリオン数生成の問題についても同時に解決しうる可能性がある。 当該研究では、AKS模型における理論の安定性を議論した。この模型には、オーダー1の結合定数が存在し、また多くのスカラー場が含まれるが、そのような場合には特に安定性の議論は重要となる。トリビアル性と真空安定性を解析し、数値計算を行った結果、理論は10TeV程度まで安定であることが示された。 一方、テラスケールで構築された輻射シーソー模型は、超対称性理論に拡張することにより、高エネルギー領域の理論に繋げることが可能だ。E.Ma氏によって提案された1ループ輻射シーソー模型は、一種類の暗黒物質候補を含む模型であり、その超対称性理論(SUSY Ma模型)がすでに提案されている。SUSY Ma模型には、二種類あるいは三種類の暗黒物質候補が含まれ、それはAKS模型を超対称性化した場合についても同様である。我々は、複数の暗黒物質候補が含まれる模型の現象論として、SUSY Ma模型においてイナートヒッグシーノが暗黒物質の一つである場合について、暗黒物質残存量を解析し、観測に矛盾しないパラメータ領域を示した。
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