研究課題
本研究の目的は、格子量子色力学に基づく数値シミュレーションによるキャビボ・小林・益川行列要素の決定である。キャビボ・小林・益川行列要素は、素粒子標準理論の基本パラメータであり、行列要素の定量的決定は素粒子論的に意義深い。特に、行列要素の一成分である|Vcd|および|Vcs|は実験的直接測定が難しく、理論的な決定が重要である。本研究では、格子量子色力学シミュレーションを使用した|Vcd|、|Vcs|の高精度決定を目指した。研究目的達成のため、DおよびDs中間子の純レプトン崩壊を用いた|Vcd|、|Vcs|の精度向上を試みた。キャビボ・小林・益川行列要素の決定には、DおよびDs中間子の純レプトン崩壊幅の実験値に中間子崩壊定数を組み合わせる必要がある。この中間子崩壊定数の理論的誤差削減に努めた。具体的には、チャームクォークに対して相対論的重クォーク作用を用いる事で、重クォークに起因する離散化誤差を削減した。同様に、DおよびDs中間子崩壊定数の繰り込み因子を非摂動的に決定し、繰り込み因子から生じる離散化誤差を抑えた。また、物理点直上でシミュレーションを実行し、クォーク質量の外挿による誤差を消滅させた。本研究により、最終的に|Vcd|=0.205(6)(10)、|Vcs|=1.00(1)(4)を得た。最初の括弧内数値が統計誤差、二番目の数値が系統誤差である。本研究で用いた大規模シミュレーションにより統計誤差は系統誤差を下回るに至った。より高精度のキャビボ・小林・益川行列要素を得るためには、系統誤差削減が必須である。系統誤差は、大部分が純レプトン崩壊幅の実験誤差に占められている。純レプトン崩壊幅実験値の精度向上が待たれる。これまで、特にlVcslにおいて、理論的不定性が最大誤差であったが、本研究にて大幅に改善できた。
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Phys. Rev
DOI:10.1103/PhysRevD.84.094505
巻: 84
DOI:10.1103/PhysRevD.84.074505
PoS
ページ: 1
http://pos.sissa.it/archive/conferences/139/132/Lattice%202011_132.pdf