計画初年度である本年においては、まずbクォーク電弱希崩壊に対するトリガーの改良及び解析モードの増加に注力した。当初予定していた二体荷電粒子トリガー(TTトリガー)については、シグナルモンテカルロ事象による検証により、二体ミュー粒子質量分布を歪め、前後方非対称度分布測定に影響を与える事が判明した。このような歪みを与えないトリガーを探した結果、これまで用いられてきたものとは異なるミュー粒子検出器を用いるトリガー(CMUPトリガー)を用いて同等の検出効率を実現し得る事を見出し、コントロールサンプルの統計量向上で実証した。また、従来より学習効率の良い人工ニューラルネットワークによる事象最適化の導入や用いる運動学的変数の整理・最適化により、同じデータ量で20%の検出効率向上を実現した。これまでに蓄積されたデータ量向上分を含めると、50%以上の事象数増加が見込まれる。次いでこれまで用いられて来なかった中性短寿命K中間子K^O_S→π^+π^-を含む崩壊モードの事象選択を最適化した。検出器内で崩壊するK^O_S中間子に対し、崩壊点に応じたエネルギー補償を行う事で再構成される親粒子の質量分布に歪みが生じる影響を抑える事に成功した。これによりK^O_Sを含む崩壊モードの分岐比測定が可能になったのみならず、荷電K中間子を含む崩壊モードとの比較による新しい物理量(崩壊分岐比の荷電スピン対称性)の測定が可能となった。この値は標準理論を超える物理現象に敏感であり、ミュー粒子前後方非対称度分布測定同様に重要である。上記により解析モード及び検出効率における所定の改良目標を達成し、最終年度における前後方非対称度の世界最高精度測定への道筋を確立した。
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