計画最終年度である本年においては、前年度解析において確立した解析手法を用い、積分ルミノシティ6.8fb^<-1>によるシグナル事象蓄積を行った。得られた事象候補は多数の背景事象を含むため、ベイジアン人工ニューラルネットワークを用いた多変量解析を行い効率的な事象選択を行った。これによりハドロン衝突実験で問題となるQCD背景事象を99%以上排除する事に成功し、164事象のB^O→K^<*O>μμ事象を得ると共に、ハドロン衝突実験で初となる20個のB^+→K^<*+>μμ事象を得た。これらの事象候補を用い本解析の主目的であるレプトン前後方非対称度(A_<FB>)の測定を行った。AFB測定においてはこれまでに他実験及び本解析の先行解析で測定された観測値が、いずれも素粒子標準模型(SM)とは矛盾しないものの、SMを超える新しい物理(BSM)の存在を示唆するものでもあったため、高い注目を浴びていた。前解析の1、5倍のデータに加え、解析の改良により最大50%の感度向上を達成し、世界最高レベルの測定を行うことで、従来の測定結果に比べSMを支持する結果を見た。またSMでは強く抑制されているが様々なBSMで存在が予言される、右巻きカレントに感度の高い観測量A_T^<(2)>及びA_<im>の測定を世界で初めて行ない、BSMパラメータ領域に独自の制限を与えた。 またこれまで未発見であったbバリオン系における希崩壊モード、Λ_b→Λμμ即事象を世界で初めて発見し、その崩壊分岐比及び部分崩壊分岐比を決定した。これによりbバリオン系における希崩壊測定という分野を開拓し、今後の多様な解析への展望を開いた。 この他、B^+→K^+μμ事象によるA_<FB>測定、B→K^<(*)>μμ及びB_s→φμμ事象における崩壊分岐比及び部分崩壊分岐比測定など多くの測定を行い、いずれも世界最高もしくはほぼ世界最高レベルの測定結果を得、b→sμμクォーク遷移の理解及びBSMモデルを絞り込む上で重要となる、多くの知見を得た。 これらの研究成果はEPS-HEP2011国際会議及びSupersymmetry2011国際会議で発表された他、二報の論文としてPhys.Rev。Lett.誌に掲載された。
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