研究課題/領域番号 |
22740144
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹田 敦 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (40401286)
|
キーワード | 暗黒物質 / 位置再構成 / 検出器の較正 |
研究概要 |
昨年度までに完成していた液体キセノン検出器の較正システムの線源駆動部分の改良を行った。線源駆動部分は、主に無酸素銅製のロッドとステンレス製のワイヤーからなる。物理からの要請でロッドの動きは1mmの精度で決定することが必要で、そのためにロッドの動きを制御するガイドが存在するのだが、ガイドとロッドが干渉した場合にワイヤーが緩み、ワイヤーを巻き取るドラムから離脱する危険性が新たに分かった。そこで、ワイヤーのテンションを常にモニターし、規定の量を下回ったら自動的に駆動モーターをストップさせることで、ワイヤーの緩み・離脱を未然に防ぐ機構を開発し導入した。これにより、安全にロッドの動きを当初の目標通り1mmの精度で決定することが可能になった。 較正源としては、新たに低エネルギーの55Feを用いたものをKRISSとの共同開発で製作した。55Feから放出される5.9keVのエックス線が十分な強度で検出器内に入るように較正源の窓は厚みが50ミクロンの薄い真鍮で製作された。実際に液体キセノン中(-100度、0.16MPa(絶対圧))で使用しても問題がないことを、液体窒素や加圧容器を用いて事前に試験した。製作した線源を液体キセノン検出器中に挿入し、データの取得・解析を行い、シミュレーションとの比較を行った。これにより、5.9keVという低エネルギー事象に対する検出器の応答を詳細に調べるための手段が整った。このエネルギー領域は、暗黒物質探索において非常に重要な領域であり、暗黒物質に対する検出器の感度を正しく評価するために必要不可欠である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液体キセノン検出器の位置再構成を行うためのシステムが当初の目標通り製作された。較正源としては、57Co, 241Am, 55Fe等が、KRISSとの共同開発で製作され、目標通りの強度(50~200Bq)のものが実現した。これらの較正源を液体キセノン中に外部からの操作で挿入し、必要な場所まで駆動することができた。位置精度は、当初の目標通り、±1mmを達成するこができた。位置決めの際に当初想定していなかった不具合(ドラムからのワイヤーの離脱)が稀に起こることが判明したが、対策を施すことで不具合を未然に防ぐことが可能になった。また、実際に様々な較正源を液体キセノン検出器中に挿入して、発生するシンチレーション光の事象データを取得し、併せて開発したシミュレーターによる結果と比較することで、検出器の位置再構成能力の評価・エネルギー分解能の評価・液体キセノンの光学パラメータの決定等、当初の目標通りの成果を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
液体キセノン中に挿入する較正源は、57Coの場合で、外径が0.2mmと非常に細いチューブに封入されている。この理由としては、57Coから放出される122keVガンマ線の液体キセノン中での吸収長が約3mmと短いため、それに比べて較正源の大きさを十分小さくしておかないと発生したシンチレーション光が較正源自身で遮蔽される影響(影効果)を無視できなくなるためである。 しかし、較正源の形状が非常に細いチューブ状であるため、検出器内部に僅かに残存している電場がチューブ先端で非常に強くなり、シンチレーション光発生のプロセスに無視できない影響を与えることが新たに分かった。これにより、較正源を入れて得られた検出器のエネルギー分解能がシミュレーションで期待されるよりも僅かに悪くなるという結果が引き起こされた。今後は、検出器内の残存する電場の影響を小さくする改良を駆動装置に施し、エネルギー分解能がシミュレーションで正しく再現できるようにする予定である。必要となる改良は技術的困難を伴わないため、計画通り遂行することが可能であることがすでに分かっている。 また、低エネルギー較正源の55Feについては、真鍮製の窓の表面状態が与える影響を全てシミュレーションで再現し、低エネルギー事象に対する検出器の理解を深め、暗黒物質探索が十分な系統誤差で遂行できるように研究を続ける。
|