本研究の目的を遂行するためには「J-PARC(茨城県東海村)・加速器ビームラインで生成されたニュートリノを東大宇宙線研神岡施設(岐阜県飛騨市)・スーパーカミオカンデ(以下SK)検出器で測定」「その測定サンプルを解析し、電子型ニュートリノを同定」する必要がある。今年度は、2010年前半のT2K実験ビームランで測定されたデータ(J-PARCメインリングの陽子ビーム強度換算で3.23x10^<19>POT)を解析し、これを行った。 具体的にはSK検出器の電子ニュートリノに対する検出効率(efficiency)とその系統誤差の見積もりを行った。SK実験が測定する大気ニュートリノは、T2K実験の加速器ニュートリノと近いエネルギーを持っている。このため系統誤差の見積もりは「SK実験が保有している最新の280日分の大気ニュートリノサンプル」をコントロールサンプルとして用い、行われた。 さらに加速器ビームニュートリノはミューオン型ニュートリノが優勢(dominant)であり、物理解析は「これらのニュートリノ散乱事象中から、微量な電子ニュートリノの荷電散乱の数を同定」することになり、背景事象数の見積もり精度もこの解析にとって重要である。そこでこれについても研究した。ミューオンニュートリノの中性散乱とビーム中に元々存在する電子ニュートリノの荷電散乱がここで言う背景事象の主な成分である。それぞれについて絶対量とその系統誤差を見積もった。 2011年3月、これらの成果もふまえた「T2K実験における最初のミューニュートリノから電子ニュートリノへのニュートリノ振動解析」が発表された。
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