本研究は、特定の信号パターンの検出によりバックグラウンドイベントを効率的に除去可能な宇宙線観測用トリガーシステムの開発を目的にしている。主に、多チャンネルかつ省電力が要求される気球、宇宙環境での高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(特にbCALET、CALET実験)への適用を想定している。電子・ガンマ線観測時には低エネルギー陽子が主要なバックグラウンドとなり、電子・ガンマ線のみを選択的に取得することが重要となる。カロリメータ中で電子・ガンマ線による電磁カスケードシャワーを生じたイベントのみを取得するトリガー判定条件をモンテカルロシミュレーションにより評価し、トリガー効率及びバックグラウンド除去率の最適化を行った。また、シンチレーティングファイバーとマルチアノード光電子増倍管、PWOシンチレーターと光電子増倍管及びアバランシェフォトダイオードを組み合わせたカロリメータに用いるトリガー回路の試作を行った。マルチアノード光電子増倍管の最終段ダイノード出力をトリガーソースとする手法を開発し、最小電離粒子イベントからカスケードシャワーイベントまでを選択的に取得できる回路を作製した。この試作回路を用いた加速器実験での測定データから、適切な出力電圧しきい値を与えることにより、バックグラウンドイベントを数%に抑えながら10GeV以上の電子に対して90%以上のトリガー効率が得られることが分かり、シミュレーションからの期待値ともよい一致が得られた。また、トリガー判定を行う論理回路を効率的に構築するため、FPGAの開発環境検討を実施した。
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