本研究では、「低温」重力波レーザー干渉計で用いられる鏡懸架装置の冷却期間短縮に必要な技術・手法の確立を目指している。低温重力波レーザー干渉計KAGRA(旧称LCGT)では鏡とその懸架装置を20K以下に冷却し、熱雑音を低減する。重力波レーザー干渉計では、設計感度を実現するために地道なノイズハンティングを繰り返すことが必要である。本研究によって冷却時間の短縮が可能になれば、実験サイクルの短縮につながり、より早期に設計感度を実現することが可能になるだろう。これは、重力波の第一検出に繋がる重要な要素である。 今年度は、「冷却に伴う鏡懸架装置の温度変化を数値計算するプログラムの作成」と「Si単結晶基盤などの輻射率の測定」を行った。温度変化を計算するプログラムは、低温レーザー干渉計CLIOで得られた実測の冷却データに適応することで検証を行い、有効に使えることを確認した。冷却時間の短縮には、熱輸送の効率を高めることが必要である。特に、冷却時間の多くを占める300Kから100Kまでの冷却には、熱輻射が有効である。熱輻射による熱輸送の効率を高めるためには、輻射率の高い素材を鏡懸架装置の表面に用いると良い。その輻射率の高い素材として、単結晶Siが有望である。そこで、室温から約60Kの範囲で、300K輻射の主要成分である10ミクロンの波長に対する輻射率を測定した。測定した範囲で温度依存性は小さく、全ての温度領域で0.67を得た。
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