本研究は、飛行時間法を用いた不安定原子核の質量測定手法の確立し、大強度重イオンビームの破砕反応で生成する不安定核の質量を測定することを目的とする。とくに、理論的に新しい魔法数が予想されている中性子過剰核54Caを中心とした核領域の質量測定を実現、新魔法数発現の有無を確証し、不安定核領域の核構造に起因した魔法数生成・消滅現象の統一的な理解を目指す。 平成24年度は、本研究において開発をしてきた飛行時間測定に特化したダイヤモンド検出器を用いたイオン光学実験をRIBF実験施設・SHARAQビームラインに於いて行い、質量既知のイオンビームの飛行経路と飛行時間測定に関するデータを取得した。このデータにより、ダイヤモンド検出器の中間エネルギー重イオンビームに対する時間分解能および位置依存性を評価し、300A MeVの炭素に対して30ps(σ)の時間分解能を得た。また、イオン光学開発における成果として、実験装置中でのイオンビームの飛行経路の情報からイオン光学行列要素を決定し、それらを運動量補正に使用することにより、ビームラインおよびSHARAQスペクトロメータの全アクセプタンスに渡って、運動量分解能 1/8100を達成できることを実証した。 54Ca近傍原子核の質量測定実験は、RIBFにおいて生成に適合した一次ビームが加速される機会がなかったため、未実施であるが、これら成果により、測定システムは、54Ca領域での質量測定を実施するのに十分な能力を有していることを実証できた。本研究の経験・成果に基づき、中性子過剰な中重核の一次ビームが供給される機会には質量測定実験を実施する。 本研究で行ったダイヤモンド検出器開発およびイオン光学開発の成果は、電磁気スペクトロメータに関する国際会議(EMIS2012)において口頭発表およびポスター発表を行い、近く発行されるこれらの会議録に掲載予定である。
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