研究課題/領域番号 |
22740151
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
平野 哲文 上智大学, 理工学部, 准教授 (40318803)
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キーワード | QGP / 相対論的流体力学 / 重イオン衝突 / 理論核物理学 |
研究概要 |
本研究の目的は、重イオン衝突反応としては最高衝突エネルギーであるLHCにおける反応の新奇なダイナミクスを包括的に記述することである。LHCは昨年度実験が始まり、すでにいくつかの興味深い実験結果が得られている。特に、1.初期状態の揺らぎの影響による方位角分布の高次の異方性と、2.ジェットによって励起されたクォークグルーオンプラズマ流体の時空発展は多くの研究者の注目を集めている。 1.本年は、初期条件に揺らぎの影響を取り入れ、空間3次元の完全流体を仮定したモデルで重イオン衝突の時空発展をイベント毎に記述した。従来と違い、イベント毎にダイナミクスを記述する際、二つの問題点があった。一つは如何に実験結果を得るための解析と同様の手法を採用するか、もう一つは如何に多くのイベントを生成すべく計算の高速化を図るかである。これらの問題を解決し、流体モデルのようなイベント平均された量を記述する有効モデルでありながら、実験と直接比較し得る結果を得た。 2.流体運動方程式にジェットよるエネルギー運動量流入項を考慮し、わきだし項の存在する相対論的流体力学の定式化を行った。この枠組みを用いて、一様媒質中をジェットが通過する場合、及び、膨張する媒質中を一対のジェットが通過する場合の解析を行い、LHC-CMSグループの得たジェット軸から大角度をなす低運動量粒子の分布を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究協力者との共同研究により、クォークグルーオンプラズマの新奇な時空発展を示す成果が得られつつあり、LHC-CMS実験によって得られた結果を初めて定量的に解釈する可能性が出てきた。また従来の計算を発展することによって着想を得た揺らぎを取り入れた全く新しい枠組みの構築も初めている。
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今後の研究の推進方策 |
すでに得られている研究成果をもとに論文を執筆し、最終年度としてまとめる。また、計算の過程をより洗練されたモデルを用いることにより、詳細な実験結果との比較を行う。これらの結果を、本年8月にワシントンD.C.で開催される当該分野で最も大きく権威のある国際会議「クォーク物質」にて成果報告を行う。
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