本研究の目的は、RHICやLHCにおける重イオン衝突反応の新奇なダイナミクスを包括的に記述することである。 近年は、1.初期状態の揺らぎの影響による方位角分布の高次の異方性パラメータと、2.ジェットによって励起されたクォークグルーオンプラズマ流体の時空発展は多くの研究者の注目が集まっている。 1.本年は、初期条件に揺らぎの影響を取り入れ、空間3次元の完全流体を仮定したモデルで重イオン衝突の時空発展をイベント毎に記述し、実験結果との系統的比較を行い、特に、最終的な物理量である高次の異方性パラメータを導出する際の手法を実験解析と同様に行う重要性を指摘した。更に、この手法をRHICにおけるCu+Au衝突のような非対称反応に適用し、事象毎の膨張の振る舞い、特に、中心ラピディティ付近におけるdirected flowの記述を行った。 2.昨年までは、デカルト座標を用いて、相対論的流体方程式にジェットよるエネルギー運動量流入項を考慮し、一様媒質中をジェットが通過する場合、及び、膨張する媒質中を一対のジェットが通過する場合の解析を行った。本年は、実際の重イオン衝突反応で生成されるクォークグルーオンプラズマを想定し、衝突軸方向に膨張するBjorken座標系を用いて同様の記述を行った。これにより、現実的なクォークグルーオンプラズマの時空発展のもとでのジェットのエネルギー損失と、失われたエネルギーの伝搬の詳細な記述を行った。特に、ジェットのエネルギーの非対称度の関数として、ジェット錐の内外におけるエネルギーバランスを計算した。このことで、ジェットがクォークグルーオンプラズマ中を伝搬する際に失ったエネルギーが、クォークグルーオンプラズマ流体の膨張を通して広範囲に伝搬することを突き止めた。
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