本研究の目的は、窒化物系新素材を応用した半導体光陰極(フォトカソード)を開発し、高品位ビーム性能と高効率を両立したフォトカソード型電子源の実現を目指すことである。 平成22年度では、(1)光電子分光による分析のための装置開発と準備、(2)ビーム性能測定のための電子銃改良と測定系の構築、(3)窒化物半導体によるフォトカソードの探索について実施した。 (1)では、角度分解光電子分光装置にNEAフォトカソードを導入可能にするためのNEA生成チャンバーを設計・製作し構築を行った。この結果、(1)4×10^<-9>Paの超高真空、(2)フォトカソード表面クリーニング、(3)アルカリ金属蒸着および純酸素導入を10^<-9>Paオーダーで制御可能な生成チャンバーの構築に成功した。本装置にて、バルクGaAsを用いたNEA表面生成に成功し、良好な表面状態を実現できる事を確かめた。またNEA作成によりこのチャンバー内でも光電子量測定系の構築を行い、半導体フォトカソードの特性評価をも可能にした。 次に、電子源を新規フォトカソードの導入可能にするため改良を施し、これに合わせてビーム性能測定系を設計・製作を行った。これにより、エミッタンスとして1πmm・mradの分解能で測定できる装置を構築した。これまでに、本装置への電子ビーム輸送まで成功しており、測定を開始できる状態を実現した。 最後に(3)では、窒化物半導体としてバルクのp型窒化ガリウムを用いることで、NEA表面を形成できる事を確かめ、NEAフォトカソードとして機能する事を確認した。さらに、高い量子効率の実現が可能である事を示唆する結果を得ることに成功した。これは、低い移動度にもかかわらず、その短い吸収長や再結合寿命に依存して、高い量子効率が得られる可能性を示唆するものである。これにより高効率化への一里塚を築く事に成功した。 次年度において、これらの結果は相補的に融合する。
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