本研究の目的は、窒化物系新素材を応用した半導体光陰極(フォトカソード)を開発し、高品位ビーム性能と高効率を両立したフォトカソード型電子源の実現を目指すことである。 平成23年度は2年計画の2年目であり、(1)窒化物半導体によるフォトカソードの探索と性能評価、(2)NEAフォトカソード型DC電子銃を用いたビーム性能測定について実施した。 前年度にバルクGaNを用いたNEA表面作製に成功した。よって本年度は、窒化物半導体を用いて低エミッタンス化を狙うため、新規にInGaN-GaN超格子フォトカソードを設計し作製を行った。作成した結晶をPLにて確認を行った結果、設計通りの発光ピーク443nm(設計値447nm)を得て、窒化物半導体を用いた超格子の作製に成功した。これにNEA表面を作製し量子効率スペクトルを測定した。その結果、超格子を反映したバルクGaNより急峻な量子効率の立ち上がりが観測され、かつ活性層100nmと薄いにも関わらず1.5%という高い量子効率を得る事に成功した。さらに耐久性についても窒素により10^<-4>Paまで真空を悪化させても電子放出をし続けることが確認された。 次に(2)では、電子線のエミッタンスを測定した。その結果、エミッション電流200nAにおいて0.013mm.mradという極めて小さいエミッタンス量を測定した。これから、本装置では超低エミッタンスビーム生成が可能であると同時に、空間コヒーレンスが高い電子を発生することが可能である事を証明した。 今回開発したInGaN-GaN超格子フォトカソードは、これまでにない高い量子効率を示すものであり、またその耐久性の高さが示される結果を得ることができた。これら性能は、今後のNEAフォトカソードの実用上、大変重要な意味を持つ結果であり、大きな成功を修めたと言える。
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