研究課題/領域番号 |
22740161
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
慈道 大介 京都大学, 基礎物理学研究所, 助教 (30402811)
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キーワード | 理論核物理 / ハドロン物理 / カイラル対称性 / カイラル対称性の部分的回復 / 有限密度 / η'中間子原子核 / カイラル量子異常 |
研究概要 |
原子核内部で、カイラル対称性がどれくらい部分的に回復しているかを定量的に確認することは、現在の原子核物理にとって重要なテーマである。そのためには、π中間子と原子核の相互作用を実験的に求めるだけでなく、信頼できる理論によってクォーク凝縮と観測量を結びつける必要がある。本研究では、核媒質中クォーク凝縮を有限密度カイラル摂動論を用いて定式化し、π中間子と核子の力学のより基本的な物理量から有限密度中でのクォーク凝縮の値を予想する。 本年度の成果は、クォーク凝縮の密度依存性対して、線形密度近似とカイラル極限を超えて現れる寄与を明らかにしたことである。また、密度2次の項では、核子相関の力学によって決まる物理量をインプットとして用いる必要があることがわかり、クォーク凝縮の値の詳細な決定には核物質を適切に構成することが重要であることがわかった。このことは、既存の核物理によって培われた計算手法によりクォーク凝縮の計算が可能であることを意味する。 本年度のもう一つの重要な成果は、η'中間子原子核と核媒質中のUA(1)量子異常に関して大きな進展があったことである。UA(1)量子異常によってη'中間子質量が重くなる際に、カイラル対称性の破れを伴う必要があることがわかり、核媒質中ではη'質量が小さくなることがわかった。また、この理論では、η'中間子の原子核中での吸収幅が小さいことも説明をした。η'中間子原子核の生成反応を具体的に考え、生成断面積を計算することによって、実験で観測される質量スペクトルを評価した。実験研究者との共同研究を開始し、η'中間子原子核の観測実験を計画するに至った。理論研究においても研究課題に広がり出て、今後、η'中間子と核子の少数束縛系の可能性の検討やη'中間子と核子との相互作用(散乱長、有効距離等)の評価といった課題を提供した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
η'中間子原子核の研究は研究を進めるに伴い、当初予想していたよりも研究内容に大きな広がりが出てきている。原子核中での束縛状態の可能性の検討だけでなく、η'中間子を含む2体系などの少数束縛系の存在やη'中間子と核子との相互作用の強さの評価が課題となってきている。特に、実験研究者との共同研究により、η'中間子原子核の測定実験が計画され、近い将来に実験が行われる可能性が高いことは、この研究テーマの発展にとって非常に大きな意味を与えた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題に対する研究計画の大きな変更は必要としないが、上記のように、η'中間子原子核に関するテーマにより重点を置くように研究課題を進める必要がある。
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