4次元ゲージ理論の散乱振幅計算は、原理的には摂動論で任意の次数まで実行可能だが、実際上はすぐに計算量の限界に阻まれる。このような従来の手法の限界を超えて、全摂動にわたる散乱振幅の振舞を調べる試みとして、性質のよいN=4超対称ゲージ理論のグルーオン散乱振幅が近年活発に研究されている。特に、ゲージ理論と弦理論の等価性として知られるAdS/CFT対応に立脚し、古典弦理論を用いてゲージ理論の散乱振幅の強結合極限を求めようという手法が2007年Alday-Maldacenaにより提唱され、この数年で急速に発展している。この手法に基づくと、n点グルーオン散乱振幅の強結合極限値はn角形型の光的境界を持つ古典開弦解の面積として与えられる。この面積は熱力学的Bethe方程式型の積分方程式を解いて計算できることが、Aldayらにより簡単な例の場合に示された。 私は京都大学基礎物理学研究所の初田泰之氏、東京工業大学の伊藤克司氏、筑波大学の佐藤勇二氏との共同研究において、可積分性を利用し一般のn点散乱振幅を求める方法の開発に取り組んだ。2010年4月に発表した論文において、我々はグルーオン運動量が2次元に収まる場合に、一般のn点散乱振幅を記述する熱力学的Bethe方程式の一般形を提案し、背景にある可積分模型を同定した。さらに、上述の熱力学的Bethe方程式を2次元共形場理論の可積分摂動を用いて解くことで散乱振幅を計算する手法を開発し、2010年9月に発表した論文および2011年3月現在雑誌投稿中の論文にまとめた。我々の手法は一般のn点散乱振幅の解析的な表式を議論できるという点で画期的であり、弱結合における散乱振幅の摂動計算の結果とあわせて、一般の結合定数におけるグルーオン散乱振幅を求める上での土台を与えると期待される。
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