ゲージ理論・弦理論の強結合領域における物理を可積分性を利用して定量的に解析する研究の一環として、本年度はM理論における可積分性及び6次元のE弦理論における可積分性の研究を行った。 超弦理論の統一的記述を与えるM理論は、粒子に代わりM2ブレーンとM5ブレーンが基本構成要素をなす。寺嶋靖治氏との共同研究では、近年明らかにされたM2上の低エネルギー理論(ABJM理論)において、超対称性を半分保つ状態(1/2BPS状態)を定めるBPS方程式を調べた。我々はこのBPS方程式に古典可積分性があることを発見した。さらにこの可積分性を活用してM2-M5束縛状態を表す解を系統的に構成する方法を構築した。可積分性を用いてM理論に現れるBPS方程式の一般解を系統的に調べるという本研究の手法は、従来の勘や試行錯誤頼りの解の構成法と比べ論理的かつ非常に強力であり、今後M理論を解明する上での研究基盤の一翼を担うと期待される。 E弦理論は量子論的に矛盾のない6次元超対称場の理論の中で最小の構成を持つ理論である。私は2012年にE弦理論のBPS状態の分配関数をあらわに表すNekrasov型公式を提唱していたが、これは発見法的に求めたもので、物理的な導出や完全な証明はなかった。今回石井健准氏との共同研究では、行列模型の手法を用いて、上述のNekrasov型公式の熱力学的極限が以前から知られていたE弦理論分配関数のSeiberg-Witten曲線による(陰関数的な)表示に一致することを証明した。これによりE弦理論のBPS状態の分配関数のあらわな公式が確立した。この公式は通常の4次元N=2ゲージ理論の場合に局所化で得られる公式と非常に似た形をとるが、その物理的理由は未だ分かっていない。この不可思議な類似の背景を探ることで、今後6次元超対称場の理論の解明が進むと期待される。
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