平成21年度の成果は以下の通りである。 1.複数のシミュレーションコードの開発。 高エネ研の松古氏、東大駒場の菊川氏の支援を受け、厳密な格子カイラル対称性を持つSU(3)格子ゲージ理論用のコードをSU(2)ゲージ理論+基本表現フェルミオンへ変更した。これを基にフェルミオンの表現を随伴表現に変更したものも作成した。更に、このコードを任意のカラーの数を持つゲージ理論を取り扱えるよう拡張した。これらのコード作成により、Nc=2、3の基本表現フェルミオンを含むゲージ理論、及び、任意のNcのゲージ理論で随伴表現フェルミオンを有する系の非摂動計算が可能となった。いずれの場合も任意の数のフェルミオン数を入れることが可能なため、例えばN=1超対称ヤンミルズ理論の非摂動的な性質の研究や、江口-川合等価性を用いたラージN理論の非摂動的性質の研究を厳密なカイラル対称性を保つ格子形式で第一原理から行えるようになった点は非常に大きい。 2.10-フレーバーQCD理論のゲージ結合定数のスケール依存性の研究。 Walkingテクニカラー模型の有力な候補である、10-フレーバーQCD理論の結合定数のスケール依存性をシュレディンガー凡関数法を用いて計算した。その結果、この理論はg^2=2付近から次第にスケール依存性が小さくなり、10/3<g^2<10の付近で全く依存性が消えることを示唆する結果を得た。この結果、Conformal Windowと呼ばれる現象論的に重要なフレーバー数の範囲について制限を与えることができた。この結果は論文にまとめ、Physical Review D誌において掲載された。 3.1.で開発したコードを用いて、Large Nc+Small Volumeの系の格子計算を開始した。まず、クエンチ近似で生成されたゲージ配位の上でオーバーラップDirac演算子の固有値分布を計算し、それをChiral Random Matrix Theoryの予言と比較し、予想通りこの系では自発的カイラル対称性の破れが起こることを確認した。ダイナミカルフェルミオンを入れた計算は現在進行中である。
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