研究課題/領域番号 |
22740183
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
山田 憲和 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (50399432)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 格子ゲージ理論 / ヒッグスの物理 / 有限温度相転移 / 計算物理学 |
研究概要 |
標準模型を超える新しい物理の「直接探索」を念頭に置き、格子ゲージ理論を用いて研究を行った。着目するのはテクニカラー(TC)理論と呼ばれる模型である。QCDのようなゲージ理論であり、その自発的カイラル対称性の破れが電弱相転移を引き起こすというアイデアが核をなす。TC理論においてフレーバー数を適切な値に取ると様々な現象論的な問題が解決の方向へ向かうことが指摘されており、Walking TC(WTC)と呼ばれている。当研究では格子ゲージ理論を駆使して真にWTCが新しい物理の候補たるか否かを第一原理計算から明らかにすることを目指している。 平成24年度は、WTCの有力な候補の一つである随伴表現に属する2つのフェルミオンを含むSU(N)ゲージ理論において自発的カイラル対称性の破れの有無を調べるより容易な手法の探索を行った。この理論は、Nが非常に大きい時、体積が小さくても理論を変えない簡約化(江口ー川合簡約)が成り立つことが知られており、これを用いて実際にカイラル対称性の破れを検知できるかを調べた。具体的には、Dirac演算子の固有値分布を調べ、それとカイラル行列模型の予言を比較することにより検証できる。まず破れることが既知のクエンチの理論では(N-1)個の小さい固有値のみが行列模型の予言通りの分布を示すことを見出した。その理由と解釈を論文に纏めて投稿した。 次に、WTCの候補として有望な多フレーバーQCD理論の有限温度相転移の研究を行った。一般にフレーバー数が多いと、膨大な計算時間がかかるため様々な物理量のフレーバー数依存性を調べることは容易ではない。そこでreweighting法を導入し、任意のフレーバー数で相転移が1次になる臨界質量を決定する手法を開発し、実際に機能することを示した。この仕事はPhysicsl Review Letterに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究では、既に出版された仕事以外にも2つの大規模計算が進行中であるが、そのいずれもまとめの段階に来ており、平成25年度内には論文にまとめる予定である。これに加え、有限温度相転移の研究では今後に繋がる予想外の成果も上がっており、更に発展させてQCDの有限温度の物理へのfeedbackが期待できる状況になっている。一方で、多フレーバーQCD模型でのグルーボール質量の計算を計画しているがなかなか進展しておらず、今後はこちらに力を入れていく必要がある。全体としては、ほぼ予定通りの成果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
多フレーバーQCD理論の有限温度相転移の研究の過程において、今回提案した手法を用いることにより、長年の懸案となっている質量の無い2-フレーバーQCD理論の有限温度相転移の次数の決定が可能であることが分かった。現在、この決定に向けた数値シミュレーションを行っている。 また、TC模型ではヒッグスはスピン0の複合粒子であり、最も軽いスカラー粒子の質量は125 GeV程度である必要がある。そこでグルーボール質量の決定を計画している。この決定は非常に複雑な解析を行う必要があるため、準備に時間を要してきたが、研究期間内には完了できるよう重点的に行う予定である。
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