研究概要 |
平成24年度は、アイソスピン一般化陽子弾性散乱の微分断面積の勾配に着目した理論解析を進めた。同時に、本手法の不安定核研究への適用を見据えて、逆運動学条件下におけるテスト実験を行った。 <理論解析手法の開発> 核子散乱の微分断面積は、密度分布のフーリエ変換と散乱振幅の積(形状因子)の二乗で表される。従って、断面積の勾配は、密度分布の平均二乗半径に対応すると期待される。これを確かめるため、理論研究者と協力して微視的畳みこみ計算を行った所、アイソベクトル密度(陽子と中性子の密度の差)の半径と(p,n)IAS反応の断面積の勾配の間に直線関係が成り立つ、という結果が得られた。これは、アイソスカラー密度(陽子と中性子の密度の和)と通常の陽子弾性散乱の間の関係に相当するものである。 そこで、通常の陽子弾性散乱と(p,n)IAS反応の断面積の傾きを比較した所、後者は前者に比べて30%ほど急であることが分かった。これはアイソベクトル密度がアイソスカラー密度に比べて核の外側に分布していることに起因すると期待される。また、(p,n)IAS反応の断面積の勾配を錫120,116で比較すると、前者の方が4%ほど急である。これは、前者の方が厚い中性子スキンを持つという既知の実験事実と無矛盾である。上記の結果は、本研究の目的である「アイソスピン一般化陽子弾性散乱による中性子スキン厚の決定」の原理が理論的に示されたこと、及び計算結果を定性的に支持する実験結果が得られたこと、を意味している。一方で、本手法の精度・定量性に関する議論を今後深めていく必要がある。 <不安定核研究への展開> 本研究の将来的な不安定核研究への適用の可能性を検証するため、不安定核ビームによるテスト実験を行った。具体的には、陽子数の三倍の中性子数を持つヘリウム8からの(p,n)反応の微分断面積を、理化学研究所RIビームファクトリーにて測定した。
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