研究概要 |
Λ粒子の第一励起状態であるΛ(1405)は、負パリティのバリオンの中で最も軽く、その質量が単純なクォークモデルで説明できないことから、この粒子は純粋に3クォークから構成されているのではなく、マルチクォーク状態、エネルギーの近い二つの粒子の共鳴の複合、あるいはメソン-バリオンの分子的な共鳴状態ではないかという議論が現在もなされている。一方、実験的研究としては、日本ではSpring-8(LEPS)、アメリカではJ-lab(CLAS)でそれぞれ光生成を利用した実験が行われ、いずれの結果もΛ(1405)が通常のバリオンとは異なる性質を持っていることがわかり、その性質を明らかにするためには、更なる実験によるデータの収集が必要である。そこで、我々は、d(K-,n)反応を利用したハドロン反応でのΛ(1405)分光をJ-PARCで計画し、その実験のための液体重水素標的の開発研究と実機製作を本予算により推進している。 本標的の特徴として、円筒型粒子検出器群の中心に標的容器を配置するため、標的容器への熱流入を液体重水素自身の対流により熱を運び、約1.3m離れた冷凍機で吸収することで低温状態を維持するものであるが、2009年度に行った基礎的なテストでその方式が機能することは確かめられている。そこで、2010年度は、装置全体のデザインを完成させ、装置の主要部分である、重水素用熱交換器、放射シールド、断熱真空容器等の詳細設計を行い、実機の製作を行った。また、温度コントロールシステム、液体重水素の圧力モニター、真空度計などを選定し購入した。これらは、2011年度に組み立てられ、冷却テスト・改良を繰り返し、ビーム散乱実験に耐えうる実機を完成させる。
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