研究課題
ナノチューブを舞台として、電子がどのようなスピン状態をとるのか、様々な相互作用を通じてスピンがどのように運動し緩和するのか、それが伝導特性にどう現れるのか、さらにどのようにスピンを制御できるのか、といった問題を理論的に明らかにすることが本研究の目的である。本年度は主に、カーボンナノチューブおよび関連物質における電子状態、スピン状態、緩和の要因となる振動モードについて、昨年度に昨年度に引き続き研究を行った。カーボンナノチューブにおいて、ナノチューブ表面の曲率によりエネルギーバンドが傾斜する効果を指摘した。金属エネルギーバンドの傾斜は、直径の小さい、またアームチェア螺旋度に近いチューブに対して大きく現れること、フェルミエネルギーから1電子ボルト程度のエネルギー領域において見られることなどを、強束縛模型による数値計算により示した。さらに有効質量近似に基づき有効モデルを構築した。バンド傾斜は左右進行波の速度の違いとして現れる。またナノチューブ量子ドットにおいてバンド傾斜はノギス様のエネルギー準位構造として現れることを指摘し、これにより2重もしくは4重縮退の振舞いはエネルギーにより移り変わることを指摘した。半導体量子ドットにおいて、スピン状態によって様々なスピンブロッケード現象が現れることを示し、スピン緩和の測定の際の指針を与えた。半導体ナノスクロール構造に対して、低エネルギーの振動モードの解析を行った。振動モードは、軸方向の振動の有無に対応し、2種類の異なる関数でスケールされることを見いだした。また軸方向の振動モードは電子系と強く結合する。このようなモードは電子系のコヒーレンスにも影響を与えると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
ナノチューブの曲率による電子状態への微細構造が明らかとなった。これは低エネルギーにおけるナノチューブ中のスピン状態を考える上で重要な効果である。層また、ロール構造に対して曲率が振動モードを大きく変化すること、および、電子系と強く結合するモードの存在を明らかにした。強く結合するモードはスピンのコヒーレンスにも影響を与えるため、本研究の推進に重要な指針を与えるものである。
これまでの研究により、ナノチューブ表面の曲率が、エネルギーギャップ、スピン軌道相互作用、バンド傾斜などを通じて、低エネルギーの電子状態に対して重要な影響をもたらすことを示してきた。今後は、曲率の効果に加え、端散乱によるスピン散乱や定在波のスピン状態など有限長の効果、電子の非対称速度が電荷やスピン伝導にどのように現れるのか、また、スピン状態がスピン軌道相互作用、核スピンとの相互作用、電子間相互作用、電子格子相互作用などを受ける結果どのような散乱を受けるのか、といった解析をすすめる。
すべて 2012 2011 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
Physical Review B
巻: 85巻 ページ: 075313-1-10
10.1103/PhysRevB.85.075313
Japanese Journal of Applied Physics
巻: 51 ページ: 02BJ06-1-02BJ06-4
10.1143/JJAP.51.02BJ06
日本物理学会講演概要集
巻: 67 ページ: 722-722
巻: 67 ページ: 758-758
巻: 66 ページ: 697-697
Physical Review A
巻: 84 ページ: 032336-1-032336-6
10.1103/PhysRevA.84.032336
http://flex.phys.tohoku.ac.jp/~izumida/