研究課題/領域番号 |
22740191
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
泉田 渉 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20372287)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | メゾスコピック系 / ナノチューブ / スピン |
研究概要 |
ナノチューブにおいて、電子がどのようなスピン状態をとるのか、様々な相互作用を通じてスピンがどのように運動し緩和するのか、それが伝導特性にどう現れるのか、そしてどのようにスピンを制御できるのか、といった問題を理論的に明らかにすることが本研究の目的である。本年度は主に、有限長ナノチューブの電子状態に関して研究を行った。 従来のナノチューブの電子状態の計算は、並進対称性に基づくバンド計算が主であった。しかし現実のナノチューブは有限の長さで終端している。ナノチューブ中の電子は端で散乱され、電子状態は左右進行波の重ね合わせとしての定在波となると考えられる。しかし、フェルミエネルギー近傍のエネルギーバンドは谷の自由度を反映して2組あるために、定在波がどのようなバンド状態からなるのかは自明でない。このような問題意識のもと、前年度は拡張タイトバインディング法に基づく有限長ナノチューブの電子状態計算プログラムを開発し、電子状態計算を可能にした。 アームチェア型ナノチューブの場合、電子は終端で異なる谷へと散乱される。前年度までの研究により、ナノチューブ表面の曲率により、ナノチューブ内の左右方向の電子速度には一般に違いがあることを指摘した。この速度の違いの効果が、有限長ナノチューブでは2重縮退と4重縮退を交互に繰り返すノギススペクトルとして顕著に現れることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実際のナノチューブは有限の長さで終端している。ナノチューブのスピン状態を理解する上では、有限長に閉じ込められたナノチューブ内の電子状態が縮退準位を有するか否かなど、電子状態に対する理解が欠かせない。本年度までの研究により、有限長ナノチューブの研究に対する基礎的な準備が出来た。 アームチェア型という場合に限定されてはいるが、電子状態に対する知見が得られた。アームチェア型チューブに対する研究は、ジグザグ及びカイラルナノチューブを今後調べる上での指針となる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、一般のカイラリティにおけるナノチューブの場合に加え、端の形状やゲート電極などによるポテンシャルなど、より現実的な状況における電子状態の研究を進める。これまでに指摘した効果がどの程度現実的であるかに関しての研究を行う。これによりナノチューブのスピン状態の安定性に対する知見を得ることが期待できる。 また、これまでの計算は一電子近似に基づいているが、ナノチューブ両端に電極を取り付けたナノチューブ量子ドットにおける顕著な伝導特性としてクーロンブロッケードが知られるように、実際のナノチューブにおいては電子相関が重要である。クーロンブロッケードの議論の際によく使用される一定相互作用モデルの妥当性などを、拡張タイトバインディング法の微視的な電子状態計算などを通して調べる。
|