従来のナノチューブの電子状態に対する理解は、並進対称性を有すると仮定するバンド計算によっている。しかし現実のナノチューブは有限の長さで終端している。ナノチューブ中の電子は端で散乱され、電子状態は左右進行波の重ね合わせとして定在波を形成すると考えられる。しかし、フェルミエネルギー近傍のエネルギーバンドは2つの谷自由度を有するため、どのような定在波が形成されるのかは自明でない。このような問題意識のもと、前年度に引き続き、拡張タイトバインディング法に基づき有限長ナノチューブの電子状態を計算する数値計算プログラムを開発し、電子状態を調べた。本年度は主に、カイラル型と呼ばれるナノチューブに対して研究を行った。 金属ナノチューブに分類されるカイラル型ナノチューブが、回転対称性の観点から2種類に分類できることを見いだした。ナノチューブ終端がバルクと同じ回転対称性を有する場合、上記2種類のナノチューブはそれぞれ異なる電子状態を有する。特に、ジグザグ型と同じ種類に分類されるナノチューブにおいては、端における谷内散乱のため、谷縮退がおこることが示された。一方アームチェア型に分類されるナノチューブでは、散乱が端の形状に敏感であり、谷間散乱が主要な場合には、一般には縮退がなくなることがわかった。この場合、すでに指摘していた同一谷内における左右進行波の速度差により、2重縮退と4重縮退を交互に繰り返すノギススペクトルが現れることが示された。
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