ハニカム格子状に炭素が結合したグラフェンは顕著な電磁的性質を示し、今なお精力的な研究がなされている。低エネルギーではDirac方程式で記述されるため、理論的に美しい様々な性質がある。グラフェンで炭素をシリコンで置き換えた物質をシリセンという。2012年に入り実験的に合成された。この物質はグラフェンと同じように低エネルギーはDirac方程式で記述される。シリコンは原子が炭素より大きいために、結晶構造がバックルしており、スピン軌道相互作用が比較的大きい。 このため、シリセンにはグラフェンとは異なる物性が潜んでいると期待できる。実際、シリセンは,最近の物性物理の大きな関心事であるトポロジカル絶縁体を実現している。ありふれた物質であるシリコンでトポロジカル絶縁体ができる事は興味深い。私が世界に先駆けて、シリセンの理論を遂行してきた。先ず、シリセンに垂直に電場をかけるとバンドギャップを変化させることができ、臨界電場でトポロジカル絶縁体からバンド絶縁体へトポロジカル相転移を起こすことを示した。また空間的に不均一な電場をかけるとヘリカルゼロモードがシリセン中に発生することを解析的に示した。更に,強磁性体を貼り付けた時の量子異常ホール効果を解析し、運動量空間でスカーミオンが構成されていることを示した。光誘起トポロジカル相転移を解析し、シングル・ディラックコーン状態が出現する事を示した。また相転移点が軌道反磁性で決定できる事を示した。シリセンに円偏光をした光を照射するとトポロジカル絶縁体と自明なバンド絶縁体で全く逆の光吸収が起きる事を示した。シリセン派生物として二層シリセン・シリコンナノチューブについても電気的及び、トポロジカルな性質を決定した。
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