本研究課題は種々の表面上に有機磁性薄膜を作製し、超短パルスレーザーと放射光を用いた光電子分光および磁気円二色性測定を行うことにより、その電子状態と磁気特性を明らかにするとともに、有機磁性薄膜の機能性の制御と新規機能性発現への糸口を探索することを目的として研究を行った。本年度は、まずレーザー光学系および有機磁性体の蒸着システムの製作・導入を行い、2光子光電子分光および2光子光電子磁気円二色性測定システムを確立した。このシステムを用い、有機磁性体であるマンガンフタロシアニン(MnPc)薄膜の占有・非占有電子状態を明らかにした。また、分子内直接励起による共鳴増大を捉えることに成功した。以上の結果を用いて中間状態への遷移選択則の検討し、理論計算と比較することで分子軌道のキャラクタリゼーションを行った。また、スピンダイナミクス研究へ展開する見通しが得られた。一方、磁気特性評価では、MnPc薄膜の高磁場極低温X線磁気円二色性測定を行い、元素選択的にスピンの向き・大きさを決定するとともに、X線吸収分光によりMnPc薄膜構造を明らかにした。また、下地基板のMnPc薄膜に与える影響を調べた結果、下地が強磁性金属の場合、界面第1層の有機磁性体のみが強磁性的にカップリングし、下地と同じ磁気特性を示すことがわかった。第2層以上では、下地基板の磁気特性には従わず、常磁性を示すことがわかった。一方、MnPc薄膜の蒸着によって下地基板は、垂直磁気異方性が増加する傾向が得られた。これは、MnPc分子自身の強い垂直磁気異方性の影響であると考えられる。
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