研究課題
原子サイズの一次元鎖は、バルクでは見られない低次元系特有の物性を発現するため、近年精力的に研究が進められている。しかし、その一次元原子鎖の研究は限られた系でしか行なわれておらず、さらにその構造物性評価には、一次元原子鎖の原子変位に対する敏感性が強く要求され、非常に大きな困難を伴う。本研究では、反射高速陽電子回折を用い、結晶表面上に構築した新しい一次元原子鎖の原子配置と電荷秩序形成のメカニズムを解明し、結晶表面における低次元構造の低温における金属絶縁体転移のメカニズムを解明する。本年度は、最近見出された一次元原子鎖を形成するPt/Ge(001)表面に関して、相転移前後の原子配置を決定した。前年度に我々は、反射高速陽電子回折による構造解析から、原子配置の表面垂直成分に関しては、理論計算により提唱されているGe原子鎖モデルでよく説明できることを示した。しかし理論計算では、Pt原子の被覆率が異なる複数の構造モデルを提案しており、さらにその相転移はPt原子の被覆率の変化に起因していると考えられている。そこで本年度は様々な入射条件でのロッキング曲線の測定と解析から、Pt/Ge(001)表面のPt原子の被覆率と詳細な原子配置の決定、さらにその相転移機構の解明を試みた。動力学的回折理論に基づく強度解析から、Pt原子の被覆率は0.75原子層であり、相転移前後でその被覆率は変化しないことが分かった。24Kで測定したロッキング曲線の解析から、低温層では最表面Ge原子は非対称ダイマーを形成していることが分かった。理論計算では、最表面Ge原子は対称ダイマーを形成すると報告している。したがって、Pt原子の被覆率が0.75原子層である理論計算の結果は概ね妥当であるが、低温層では最表面Ge原子が非対称ダイマーを形成するp(4x4)構造が基底状態である。この原因として、電荷密度波形成や格子エネルギーの利得などが考えられる。
2: おおむね順調に進展している
広いドメインに亘って均一な一次元鎖の作成条件を見出し、複雑な一次元原子鎖の原子配置の決定に成功し、さらに海外の学術誌に現在投稿中である。また、角度分解光電子分光法による低温での表面電子バンド構造の測定及び相転移に伴うバンド分散の変化を捉えることにも成功している。
反射高速陽電子回折による原子配列の決定および角度分解光電子分光による表面電子バンド構造の測定においては、広いドメインに亘って均一な一次元原子鎖を作製することが必要である。Pt/Ge(001)表面においては、適切な作成条件を見出すことにより均一な原子鎖の作製に成功したが、他の低次元構造において同様に適切な作成条件を見出すことに困難が予想される。その場合、これまでの一次元系の電荷秩序メカニズムの知見をもとに、ごく最近見出されたバイポーラロンを形成する新たな低次元系表面の研究に展開する。このバイポーラロン相は、アルカリ原子吸着により絶縁化する新奇な低次元構造であり、これまでの低次元構造の研究の発展形として考えられる。
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Surface Science
巻: 606 ページ: 919-923
10.1016/j.susc.2012.02.006