化学気相成長法により強磁性金属(Ni(111))上に成長させた単層・二層グラフェン試料について、深さ方向を分解したX線吸収分光(XAS)と磁気円二色性分光測定(XMCD)を行い、グラフェン構造、及び各々の界面における電子・スピン状態を探った。直線偏光した放射光による炭素内殻励起XAS測定を行った結果、単層グラフェンでは、斜入射(θ=20°)でπ^*軌道由来のピーク強度が、直入射(θ=90°)でσ^*軌道由来のピーク強度が増大する偏光依存性が観測された。これによりNi(111)表面上に平坦で均質な単層グラフェン成長が起きていることを確認した。二層グラフェンについても同様の偏光依存性が確認されたが、単層グラフェンに比べてπ^*軌道由来のピーク強度が減衰していることが分かった。これは、下地のNi層から二層グラフェンのπ^*軌道へ電荷移動が起きていると考えられる。次に、下地のNi層を面内方向に磁化させた後、外部磁場を加えない状態で室温条件下での炭素内殻励起XMCD測定を行った。その結果、二層グラフェンの場合、π^*軌道近傍でスピン偏極状態の存在を示すXMCD信号が検出された。一方で、単層グラフェンについてはXMCD信号は殆ど観測されなかった。単層グラフェンの場合、ラマン分光測定からNi界面における強い相互作用(π-d混成軌道形成)が生じていることが分かっており、同相互作用によりグラフェンのスピン偏極状態が消失していると考えられる。二層グラフェンの場合、恐らくNi3dスピンがグラフェンのπ^*軌道へ電荷移動することで、スピン偏極状態が誘起されていると推察される。
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