研究課題/領域番号 |
22740206
|
研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
松本 吉弘 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 任期付研究員 (80455287)
|
キーワード | グラフェン / 界面 / スピントロニクス / X線磁気円二色性 |
研究概要 |
本年度はグラフェンへのスピン注入効率を支配するグラフェン/磁性金属界面の電子・スピン状態の理解を目的とし、Ni(111)面上に化学気相成長させた単層グラフェン(SLG)と二層グラフェン(BLG)の各構造について、検出深さを分解したX線吸収分光(XAS)測定、及び、X線磁気円二色性(XMCD)測定を行った。SLG/Ni(111)構造とBLG/Ni(111)構造は、サファイアのc面(α-Al_2O_3(0001))上にNi(111)層(膜厚:30nm)をエピタキシャル成長させた後、約650度に保持した同表面に対して前駆体ガス(ベンゼン、プロピレンなど)を曝露することで作成を行った。その際、曝露量を緻密に制御することでグラフェンの層数制御成長を行った。SLG/Ni(111)構造の場合、C_<1s>→π*共鳴励起領域において、Ni(111)層の面内残留磁化方向の変化に応じてグラフェン由来の強いXMCD信号を室温下で検出することに成功した。これは室温条件下でも、Niと結合しているSLGのπ軌道にスピン偏極が誘起されていることを示している。BLG/Ni(111)構造についても、SLG/Ni(111)構造と同様のCK端励起XMCD信号が検出されたが、その積分強度はグラフェン層数が増加にするにつれて減少することが分かった。観測されたXMCD信号強度の変化は、Ni(111)層とグラフェン層間の交換相互作用の減衰を反映しているものと推察される。NiL端励起XMCD測定から、グラフェン界面近くのNi原子層(一層程度)の面内磁気モーメントが、グラフェン界面から離れたNi原子層の面内磁気モーメントと比較して2-3割程度減少する一方で、面直方向の磁気モーメントが増大することが分かった。これは、グラフェン-Ni間に共有結合が形成されることで界面近傍のNi原子層の磁気異方性が変化したことに因るものと推測される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の設定目標は、(1)磁性金属上への高品質・大面積な単層・多層グラフェン構造の層数制御成長と、(2)同構造の特に界面に着目した電子・スピン状態の分光解析である。目標(1)については高品質かつ大面積の単層・二層グラフェン試料の層数制御成長に成功している。目標(2)については深さ分解分光手法を用いることでグラフェン/磁性金属構造のヘテロ界面近傍、及び、二層グラフェンの各層の電子・スピン状態を初めて明らかにしている。 以上から、研究の進捗は概ね順調であると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画通り、グラフェン/磁性金属構造を磁性電極としたスピン注入素子の作成を行い、非局所測定からスピン注入効率の測定を試みる。また発展的課題として、グラフェンと格子整合性が高く、且つ、絶縁特性を有する六方晶窒化ホウ素(h-BN)をバッファ層として挿入したグラフェン/h-BN/Ni構造の作成を行い、各界面における電子・スピン状態の分光解析を行う。さらに、スピン注入素子の作成を行い物性測定の計測を行う。
|