研究概要 |
3d遷移金属のK-吸収端近傍で観測される「多電子励起(MEE)」の機構解明を目指す上で,X線吸収(XAS)の磁気円二色性(MCD)スペクトルの明瞭化によるMEE電子遷移過程の特定が重要であり,それに向けた高分解能XAS-MCDスペクトル測定の実現を目指している.昨年度は,強磁性Mn化合物のMn K-吸収端に対する高精度X線発光分光(XES)のMCDスペクトル測定を実現し,XAS-MCD信号に対する軌道間遷移の相違の観測に成功した.本年度は,3d電子数による相違を調べるために,Fe K-吸収端に対する高精度XES-MCDスペクトル測定をSPring-8BL39XUおよびBL12XUで行った. Fe2p→1sおよび3p→1s脱励起過程のXES-MCDスペクトルをエネルギー分解能0.4eVで高精度に測定することに成功した.Mnの場合と同様に,エネルギー分解能の向上による入射X線エネルギーに依存した微細構造の複雑な変化が観測された.また,得られた高精度XES-MCDスペクトルから,XASの前吸収(pre-edge)領域でのMCD信号の増大効果はフェライトのような酸化物強磁性体に特有のものであり,金属性強磁性体ではそのような増大効果が観測されないことが実証された.また,XES-MCDでは,XAS-MCDにおけるMEE信号の増大効果が期待されたほど観測されなかったものの,そのスペクトル構造はXASの主吸収(main-edge)領域で観測されたものとは少し異なっていることが明らかになった. 本研究課題にて達成された「高精度XES-MCDスペクトル計測」および「軌道選別XAS-MCDスペクトルの導出」は,MEE機構の解明を目指す上で不可欠な要素であるだけでなく,解釈が困難であったK-吸収端でのXAS-MCDに対して非常に有用なものであるといえる.今後,MEEに起因するXES-MCDスペクトルに対する3d電子数をパラメータとした実験データの蓄積や,理論計算による検証を進めることで,MEE機構解明の実現を目指していく.
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