研究概要 |
最近、磁性や強相関電子系の研究分野を牽引する新機軸として、電荷自由度とフラストレーションの組み合わせが注目を集めている。本研究は、導電性スピンフラストレート系におけるスピン励起を単結晶中性子非弾性散乱によって測定し、スピン電荷結合を反映する特徴的なスピン揺らぎを観測することを目的とするものである。中心的な対象物質として、(1)遍歴d電子系の中で特異に重い電子現象を示すが、現在でも偶発的に育成される最大の単結晶がわずか1mm角というスピネル酸化物LiV_2O_4と、(2)伝導現象に大きな異常は報告されていないが、ブリッジマン法によって1cc級の大型単結晶の育成が可能な金属間化合物Mn_3Ptを選定した。 初年度の平成22年度は、予定通り、(1)を目指し、(2)を保険として進めた。 (1)については、試験的におよそ400個の微小単結晶集合体の作製と中性子測定を行なった。集合体の結晶方位のずれがまだ大きいため、中性子データの質は不十分ではあったものの、国内の中性子装置で十分な散乱強度が得られるための条件と、目的とする磁気非弾性散乱のおおよそのQ位置を見積もることに成功した。(2)については、大型単結晶の準備と中性子非弾性散乱によるS(Q,E)マップの取得に成功した。解析結果の一部として、常磁性相における動的部分無秩序状態の存在を初めて観測した。我々はこの結果を導電性スピンフラストレート系における典型的なフラストレーション効果ではないかと考えている。来年度に更なる研究を進めて行く予定である。
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