研究課題
次年度である平成23年度では、平成23年3月11日に発生した東日本大震災の影響が深刻であり、多数の試行錯誤が求められる挑戦的課題であるスピネルLiV_O_4に関し中性子研究を継続することができなかった。そこで、並進させていた金属間化合物Mn_3Ptの中性子研究をさらに押し進めた。その結果、初年度に観測した常磁性相における動的部分無秩序状態のスピンの空間相関は、主に2次元正方格子のスピン揺らぎから成り、面間には僅かに反強磁性相関が存在することを初めて明らかにすることができた。この空間相関は、磁気秩序相(F相)の磁気構造と同一であるため、このスピン揺らぎはF相の磁気構造の形成へ向かう途中の臨界現象と解釈できそうである。新たなテーマとして、同じく導電性フラストレート系として注目を集めているパイロクロアNd_2Ir_2O_7を、中性子散乱によって研究した。本物質は約32Kで磁性の変化を伴うが構造の変化を伴わない金属絶縁体転移を示し、フラストレーションとの密接な関係が期待されている。しかし、Irは中性子吸収係数が大きく、中性子実験は非常に困難である。そこで、我々はNdの4f電子結晶場を内部磁場のプローブとして用い、Irの磁性を推測するという手法をとることにした。その結果、ある程度ではあるものの手法の整備に成功し、最低温相で伝播ベクトルσ=0の磁気長距離構造が発生することを観測した。また、スピン軌道相互作用に由来するイジング型磁気異方性の獲得が、金属絶縁体転移のトリガーではないかという提案を行った。大量の微小単結晶の整列による中性子散乱法とは異なるアプローチとして、交差相関法と呼ばれる白色中性子散乱法の改良にも取り組んだ。その結果、測定対象と実験条件をひどく選ぶという条件付きではあるものの、本方法による効率の利得が得られる場合があることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
平成23年3月11日に発生した東日本大震災の影響は深刻であったが、並進させていたテーマを押し進めたことと、新たなテーマを積極的に取り入れたことにより、導電性スピンフラストレート系に関する中性子散乱研究や手法開発を推進して来たため。
中性子源の回復が不定であるので、獲得できた貴重なビームタイムを最大限活用出来るよう、テーマを臨機応変に選定して行く予定である。その際、導電性スピンフラストレート系を中心に、そこからヒントを得た新たなテーマも積極的に検討して行く。また、中性子測定だけではなく、マクロ測定や放射光測定を積極的に取り入れることにより、より多角的な研究発展を模索する。
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すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件) 学会発表 (9件)
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