研究概要 |
平成24年度では、計画通り、様々な角度からアプローチを行い、以下の成果を得ることに成功した。 導電性フラストレート系LiV2O4に関し、J-PARCに設置された新型分光器アマテラスにおいて中性子非弾性散乱を行った。本物質は過去にも中性子非弾性散乱が行われ、散乱ベクトルの大きさQ = 0.6 A-1において反強磁性的準弾性散乱が観測されていた。しかし、本物質の特徴である~20 K以下における重い電子的振る舞いとこのスピン揺らぎの対応関係、スピン揺らぎの(Q,E)空間における構造、空間相関など、実験的には不明な点が残され、研究が停滞していた。本研究の結果、この反強磁性スピン揺らぎが~20 K以下において急速に成長し始めること、少なくとも5 meVまで急峻な勾配を持って分散的であること、Q = 2-3 A-1にブロードな第二ピークが存在することを観測した。さらに、強度のQ依存性から、空間相関の基本構造として、最近接四面体が強磁性相関を持ち、四面体間には反強磁性相関が存在することが示唆された。 LiV2O4と同型のスピネル酸化物である絶縁性フラストレート系MgCr2O4について、スピン励起の全体像を測定した。その結果、スピン分子描像で記述出来る非分散的なモードが、磁気秩序相だけでなく、磁気液体相から普遍的に存在することを明らかにした。LiV2O4との大きな相違の一つは分散性の大小であり、現在、その他の相違も吟味中である。 申請時にLiV2O4との比較物質として挙げたペロフスカイト酸化物LaCoO3の不純物置換系の実験研究も行った。本系では、フラストレーション由来ではなく、スピンクロスオーバー由来の強磁性スピン分子が、磁気ポーラロンとして伝導を担うと期待されている。実験の結果、磁気的にも形状的にも異方性の強い新型スピン分子の作製に成功し、また、電子ドープ効果の一端を明らかにした。
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