2008年に日本で発見された「スピンゼーベック効果」は、熱エネルギーからスピン(磁気)の流れであるスピン流を作り出す現象である。生成されたスピン流はスピンホール効果と呼ばれる現象を用いることで電気の流れに変換されるため、スピンゼーベック効果を用いれば通常の熱電現象と同じように熱エネルギーから電気の流れを作り出すことが可能となる。そのため、スピンゼーベック効果は新たな熱電現象として大きな発展の可能性を秘めている。 この研究課題では、スピンゼーベック効果のメカニズムの解明を目指している。これまで我々は、非平衡の磁気励起(マグノン)がスピンゼーベック効果を引き起こすマグノン媒介スピンゼーベック効果の理論を発展させてきた。しかしごく最近になって観測された、スピンゼーベック効果の低温の増大はこの理論によっては説明出来ない。 我々は、この異常な温度依存性を説明するために、非平衡の格子振動(フォノン)がマグノンの分布関数を変調する、フォノンドラッグ・スピンゼーベック効果の理論を新たに発展させた。そして、スピンゼーベック効果の低温での増大を見事に説明するとともに、より低温ではスピンゼーベック効果が減少すべきで、結果としてスピンゼーベック効果は低温でピークを持つ事を理論的に予言した。
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