研究課題/領域番号 |
22740210
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
安立 裕人 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 任期付研究員 (10397903)
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キーワード | スピントロニクス / スピン流 / スピンゼーベック効果 / 熱 / スピン波 / フォノン |
研究概要 |
2008年に日本で発見された「スピンゼーベック効果」は、熱エネルギーからスピン(磁気)の流れであるスピン流を作り出す現象である。生成されたスピン流はスピンホール効果と呼ばれる現象を用いることで電気の流れに変換されるため、スピンゼーベック効果を用いれば通常の熱電現象と同じように熱エネルギーから電気の流れを作り出すことが可能となる。そのため、スピンゼーベック効果は新たな熱電現象として大きな発展の可能性を秘めている。 この研究課題では、スピンゼーベック効果のメカニズムの解明を目指している。これまで我々は、非平衡の磁気励起(マグノン)がスピンゼーベック効果を引き起こすマグノン媒介スピンゼーベック効果の理論を発展させてきた。そして、磁性絶縁体における室温でのスピンゼーベック効果は、このマグノン媒介スピンゼーベック効果によって説明出来るという認識が確立しつつある。しかし我々のごく最近の研究により、非平衡の格子振動(フォノン)がマグノンの分布関数を変調する事でスピンゼーベック効果を駆動する、いわゆるフォノンドラッグ・スピンゼーベック効果というプロセスも重要である事が分かってきた。 このような状況をうけて、本年度はスピンゼーベック効果へのフォノンの影響を中心に研究をおこなった。まず、スピンゼーベック効果の温度依存性の低温での増大がフォノンドラッグの影響によって引き起こされる事を明らかとした。更に、熱的揺動と機械的揺動は同じ線型応答を引き起こすため、フォノンドラッグ・スピンゼーベック効果で主役を演じた熱フォノンではなく、機械的に発生させた音波からもスピン注入が可能である事を理論的に指摘した。この指摘をもとに、共同研究者である東北大学金属材料研究所の齊藤教授のグループと音波によるスピン注入の実験を計画し、見事に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はスピンゼーベック効果へのフォノンの影響を重点的に研究したが、この成果は既に複数の文献に出版されており、研究は順調に進展していると判断出来る。
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今後の研究の推進方策 |
ごく最近、温度勾配の方向にスピン流を注入する縦型スピンゼーベック効果の存在が実証された。縦型スピンゼーベック効果は構造がシンプルでバルクの磁性体を使用出来るため、より応用に適している。本年度は、この縦型スピンゼーベック効果を中心に、スピンゼーベック効果の応用の側面を重視した研究を行って行く予定である。
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