マルチフェロイック物質であるMn304におけるスピン格子相互作用に関して研究を行った。通常スピネル構造を有するスピン系は幾何学的フラストレーションのため複雑な磁気的性質を示すことが多いが、Mn304はB-siteを占有するMn3+のヤーンテラー歪みにより幾何学的フラストレーションが解消されている。それにも関わらず温度変化により逐次的に三回磁気転移を示す等、複雑な振る舞いを示すことが報告されている。我々のこれまでの研究から磁場を100方向に印加することで電気分極が誘起されると同時に0.3%もの巨大な磁気歪みを示すことがわかっている。2009年度に行った中性子回折実験の結果から、電気分極と磁気歪みの発現にともなってスピン配列の変調波数がQ=(1/200)から(100)に不連続に変化することが明らかになった。本年度はスピンと格子の結合状態を調べるために放射光X線回折実験を行った。その結果、スピン秩序相において超格子反射を発見し、スピン配列と同じ変調波数をもつ格子変調が存在すること明らかにした。磁場を100方向に印加したところ、スピン配列が変化すると同時にこの格子変調も消失した。このことから、Mn304においては強いスピン格子相互作用によりスピン系と格子系が連動して相転移を起こしていることがわかった。磁気変調と格子変調の周期が同じであることは珍しく、この磁気格子歪みの発現メカニズムは大変興味深い。スピン格子相互作用を通してスピン秩序化と格子歪みが拮抗した結果として複雑な磁気秩序が実現し、結果として強誘電分極が発現していると考えられる。
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