研究概要 |
マルチフェロイック物質とは複数の自由度、(スピン、電気分極、格子、電荷等)が同時に秩序化した物質群の総称であり、近年、デバイスへの応用が期待され盛んに研究が行われている。最も多く研究が行われている螺旋磁性誘起強誘電体はスピン螺旋構造がフラストレーションに起因するため動作温度が数十K程度と低い。また、スピン格子間の結合が弱いDM相互作用によるため電気分極の大きさが従来型の強誘電体にくらべて桁違いに小さい。本課題では螺旋磁性型とは異なるタイプのマルチフェロイック物質に着目し、そのミクロスコピックな機構を明らかにすることで高性能マルチフェロイック物質の開発を推進することを目的としている。 23年度は磁場印加により電気分極を発現するMn304に着目して研究を行った。Mn304は歪んだスピネル型の結晶構造を持ち、43K以下でスピンはノンコリニアなフェリ磁性構造をとる。39Kでq=(1+δ1-δ0)(δ~0.5)を持つ不整合磁気秩序相へ、さらに34Kで整合磁気秩序相(δ=0.5)へと逐次相転移を起こす。[100]方向に磁場を印加すると電気分極を発現し同時に急激な磁化の増大、格子の磁場方向の伸びを示す。22年度に中性子回折実験を行い磁場印加によりスピン配列が変化することが明らかになっている。23年度はKEK,Photon Factoryにおいて放射光X線回折実験を行い、スピンの変化にともない格子系がどのように変化するのか調べた。ゼロ磁場下でスピン配列と同じ変調波数で格子系にも変調変形が起きていること、また、磁場印加によりスピン配列が変化し分極が発現するのと同時に長周期格子変形が消失することが明らかになった。この結果から、本系のスピン格子相互作用はスピン間に働く超交換相互作用の逆効果に起因することが明らかになった。また、磁場印加によりスピン軌道相互作用を介して3d電子軌道がわずかに変化することをトリガーとして巨大な物性異常が発現していることが明らかになった。
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