当該年度には、水銀系のパイロクロア弗化物の合成条件を確立し、二つのコバルトの化合物について強磁場下で磁気転移を発見した。水銀系パイロクロア弗化物には、フッ素以外の陰イオンとしては酸素と硫黄の化合物があり、遷移金属としてはコバルトとニッケルの化合物に関して主に研究を行った。これらの化合物は、いずれもキュリーワイス温度が負で大きさは100K以上であるが、10K程度の低温において磁気秩序を示し、スピンフラストレーションの影響が強いことが明らかになった。さらに、コバルトについては酸素と硫黄の化合物はともに、強磁場下で磁気転移を示すことを発見した。これらの磁気転移は、磁化の値が全磁化の半分のところで起こっており、クロムスビネルで見られた磁化プラトー相への転移と関連すると考えられる。しかし、ニッケル系に関しては、反強磁性相互作用が強いため、磁化が半分未満のところまでしか測定できず、同様な磁気転移の有無に関しては検証できなかった。昨年度に発見したように、カドミウム系の鉄のパイロクロア弗化物力桐様の磁気転移を示すととを考え合わせると、クロム、鉄、コバルトのパイロクロア格子において磁気転移が観測されたことになる。本研究によって、半磁化プラトーは、磁性イオンの種類によらず、パイロクロア反強磁性体に一般的に現れる現象であることが示された。
|