本研究の目的は、新しい研究分野として注目を浴びつつある量子乱流研究に対し、その理解を深めるための新しい量子乱流研究を提案・構築し、理論的に解析することである。量子乱流は量子渦を通して乱流を要素還元的にとらえ理解するための理想的な系であり、乱流研究において、その理解を深めるための重要な系であるとともに、量子乱流中における量子渦の運動を理解することは、量子渦と同様のトポロジカル欠陥である液晶の転傾や宇宙物理における宇宙ひもの運動への理解をも深めることができる。 今年度の当初の目的は種々の系であ現れるトポロジカル欠陥の類似性・相違性を整理すると共に、非平衡現象へと発展させることであった。実際に明らかにしたのは主に以下の2点である。(1)トポロジカル欠陥の存在は、系の空間対称性を破るため、それに伴った南部・ゴールドストーンモード(以下NGモード)が現れ、それはトポロジカル欠陥の基本的な運動となる。このNGモードは宇宙ひもや転傾のように、欠陥を構成する場にローレンツ対称性がある場合と量子渦のようにローレンツ対称性がない場合とで、有限サイズ効果を含めて大きく異なることを明らかにした。特に後者では前者のNGモードのいくつかが結合して、より柔らかいNGモードとなる。また前者は有限サイズ効果によって動的不安定性が現れるのに対して後者は熱力学的不安定性しか現れず、後者は前者より安定となることが分かった。(2)こうした渦の運動にともなって系の相転移の振る舞いにも違いが現れる。両者の系は相転移点近傍で臨界状態となるが、その臨界指数は古典的臨界指数が全く同じであるにも関わらず、動的臨界指数が両者で異なることを明らかにし、特に量子乱流の系となる量子流体において量子渦の、より柔らかいNGモードのために臨界緩和が質的に遅くなることを示した。
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