研究課題/領域番号 |
22740221
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 鉄平 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助教 (10376600)
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キーワード | 高温超伝導体 / 角度分解光電子分光 / 擬ギャップ |
研究概要 |
高温超伝導体における擬ギャップの起源は未解決の問題である。アンダードープ領域では、低温においてエネルギーギャップの方向依存性が単純なd-波からずれており、超伝導と競合する秩序状態であることが示唆されている。理論の多くは、(π/2,π/2)の周りに折りたたまれた小さなホール的フェルミ面を予言している。しかし、角度分解光電子分光(ARPES)で観測されているのは「途切れている」フェルミ面である。また、ホール係数の異常は折りたたまれた小さなフェルミ面と関連している可能性が指摘されている。小さなフェルミ面の存在を検証することは、高温超伝導体の基底状態を決定する根本的な問題である。高分解能ARPESによる精密測定により、小さなフェルミ面を検出し、擬ギャップ、輸送現象の異常の解明を目指す。 昨年度は最適ドープ領域のLa_<2-x>Sr_xCuO_4(LSCO)の角度分解光電子分光(ARPES)において、超伝導ギャップと擬ギャップのエネルギースケールが明確に異なり、2つの異なる性質のギャップが共存していることを示す成果を得た。このことを踏まえて当該年度は、3枚のCuO_2面をもち、高いT_c(110K)を示すBi2223の電子構造をARPEsを用いて詳細に調べた。超伝導状態と、常伝導状態で観測されたエネルギーギャップ、及びエネルギーギャップの存在しない波数領域(フェルミアーク領域)の間に関係を見出だし、LSCOの結果と合わせて興を決定する重要な秩序パラメータを見出だした。また、鉄系超伝導体のARPESにおいて、超伝導転移温度以上において開いているギャップが観測された。これは銅酸化物の擬ギャップと類似しており、今後、両者を比較して研究することが必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LSCO,Bi2223などにおいて、ARPESスペクトルの温度依存性が精密に観測されており、擬ギャップと超伝導の関係について、知見が深まったと言える。特に、フェルミアーク、超伝導ギャップ、擬ギャップと、超伝導との関係を統一的に理解できるモデルを検証することができ、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目的である折りたたまれたバンド分散の観測のためには、今後さらに、分解能を高めた測定を進める。また、鉄系超伝導体のARPESにおいて、超伝導転移温度以上において開いているギャップが観測された。今後、銅酸化物と鉄系超伝導体の擬ギャップを比較して研究することで、擬ギャップの起源について、重要な情報がもたらされることが期待される。
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