我々は、平均場近似を超えた多体効果であるバーテックス補正(VC)により、鉄系超伝導体の構造相転移や弾性定数のソフト化に対応する軌道揺らぎが増大することを明らかにし、正常状態の相図を再現する微視的理論を構築した。構造相転移臨界点近傍では、発達した軌道揺らぎを起源とする超伝導の発現が自然に期待される。 VCは平均場近似(RPA)を超えた多体効果であり、ワード恒等式より保存近似を満たすために必要であるため、強相関系においてしばしば重要な役割を果たす。銅酸化物高温超伝導体のホール係数やネルンスト係数等の異常な輸送現象が、カレントに対するVCにより統一的に説明される。多軌道系のVCはこれまでほとんど研究されていなかったが、我々の研究により、多軌道系に特有の重要性が明らかになった。 具体的には自己無撞着にVCと感受率を計算した(SC-VC法)。揺らぎの理論に基づくダイヤグラムの考察より、Aslamazov-Larkin(AL)項と呼ばれる揺らぎの2次のVCが、軌道揺らぎを著しく増大することが見出された。また、この機構によりスピンと軌道の臨界揺らぎが協調して発達する。 最近我々は、SC-VC法に自己エネルギー補正を加えて自己無撞着に計算する手法を開発した。この理論では、SC-VC法より軌道揺らぎが優勢となり、第一原理計算より見積もられた値J/U=0.12-0.15においても軌道揺らぎが支配的になる。軌道揺らぎにより誘起される超伝導ギャップ関数は符号反転のないS波(S++波)であり、非磁性不純物効果等の実験結果と整合する。また、一般に軌道揺らぎとスピン揺らぎが拮抗して発達するため、パラメーターに応じてS++波やS+-波、ノードありS波が実現し、これらは同じ群論の規約表現に属するためクロスオーバー可能である。このため、実験で観測される鉄系超伝導体の多様なギャップ関数を説明できると期待される。
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